公益財団法人 医療科学研究所

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PROJECTS医研の事業

健康政策における「地域・コミュニティ」のコンセプトマッピングプロジェクト(2018-2020年度)

プロジェクトのねらいと概要

少子高齢化や貧困層の拡大などの今日喫緊の社会課題を前に、子育て支援、高齢者の医療介護、生活困窮者支援ほか、多方面にわたる健康・福祉関連政策において、「地域・コミュニティ」が政策・実践展開の場として重要性を増している。実際、地域医療構想、地域包括ケア、地域住民参加、地域共生、コミュニティワークなど近年の政策キーワードには「地域・コミュニティ」が含まれ、さらに近年は地域創生などの経済産業政策においても「地域・コミュニティ」は重要な施策の「場」となっている。しかし、「地域・コミュニティ」とはなにか、は必ずしも明確に定義されないまま、議論が先走りしている感がぬぐえない。実際、人口規模、空間的ひろがり、ネットワークの構成要素、機能など、多様な概念軸によって「地域・コミュニティ」は語られ、しかも都市部・農村部で語られているものは同質・異質のものが混ざり合っている。さらに近年、SNSなどの普及により、空間・地縁に縛られない新たな地域・コミュニティも形成されつつある。こうした中、だれがどのように誰に対して「地域・コミュニティ」関連の政策を展開していくのか、はますます混迷を深めるばかりであり、地域・コミュニティの概念の整理が政策実践の現場でも求められている。

たとえば「地域包括ケアシステム」は、当初高齢者対策に重心を置いていたが、その後社会福祉的課題(貧困・虐待・ネグレクト・孤立など)も取り込みつつ、地域生活を支援する多世代・共生社会のための公共システムとして議論が深化してきた(田中、2018)。その一方で、地縁に基づく地域交流が希薄化するなか、新たなコミュニティへの関わり方の模索が進み、地域社会で住民・市民ひとりひとりが公共的な関わりを、なにを根拠にどのように構築していくかは、決して自明なことではない。

本自主研究事業ではこうした問題意識から、1)健康関連各種政策(保健・医療介護・福祉)においてそれぞれ前提とされている「地域・コミュニティ」は、それを規定する軸(空間・人口的規模、ネットワーク構成要素、機能など)が、どのように異なるかをコンセプトマッピングする、2)多様な「地域・コミュニティ」のコンセプトがそれぞれどのような資源・成立要件によって規定されるのかを検討しつつ、まだ明らかとなっていない要件を探索抽出する、3)それらを踏まえ最終的には、「地域・コミュニティ」を政策展開する際の課題について整理する、ことなどを目的とした。

2018年度は、社会学、行政学、コミュニティ論、ソーシャルワーク論、2019年度は、コミュニティ・エンパワメント、政治学等、従来、地域やコミュニティの概念を考察の対象としてきた各領域の有識者にヒアリングを行い、地域とコミュニティの概念やその変遷を整理した。

2020年度は、新型コロナ感染症のような困難な状況にもかかわらず地域・コミュニティ組織が柔軟かつ前向きに活動を推し進めることができた根底にある要素について事例研究より調査した。

田中滋(2018)「地域包括ケアシステムの深化 ー 2040年「多世代共生社会」を目指して」
Monthly IHEP 2018年8月号

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