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シンポジウム

産官学シンポジウム2019 AIは創薬に何をもたらすか−日本の強みをどう生かすか−

シンポジウムのようす 昨年の産官学シンポジウムでは、「医療データヘルス改革−医療ビッグデータ構築とデータが生み出す変革の可能性−」と題して、医療データについて取り上げましたが、今回はAI(人工知能)にスポットを当て、議論を深めました。
様々なデータをAIのディープラーニングによって学習させ、創薬のために応用する試みはすでに始まっています。米国や中国がリードするなか、日本はどのようにして強みを発揮していくのか、各界からの業界の動向や先端事例を発表いただきました。
事務局編集による講演内容の要約は、次の通りです。

※講演録は、機関誌『医療と社会』(Vol.29,No.3)2019年10月に発刊予定です。

開催概要

日 時
2019年5月18日(土)13:30〜17:00
会 場
全社協・灘尾ホール
東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階
主 催
公益財団法人医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 江利川 毅
来賓挨拶 厚生労働省医政局長 吉田 学
座長趣旨説明 帝京平成大学薬学部教授/医療科学研究所理事 白神 誠
講演 慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室教授 宮田 裕章
内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官 新田 隆夫
厚生労働省 大臣官房厚生科学課長 浅沼 一成
京都大学大学院医学研究科 ビッグデータ医科学分野教授 奥野 恭史
ショートスピーチ エーザイ株式会社上席執行役員 筑波研究所長兼hhcデータクリエーションセンター長/日本製薬工業協会 研究開発委員会 副委員長 塚原 克平
日本製薬工業協会 研究開発委員会 専門委員長/田辺三菱製薬株式会社 医療政策部イノベーション企画グループ 担当部長 赤塚 浩之
パネルディスカッション
閉会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 事務理事 戸田 健二

(敬称略)

座長趣旨説明

白神 誠氏の写真

帝京平成大学 薬学部 教授
公益財団法人医療科学研究所 理事
白神 誠

今日のシンポジウムのテーマはAIと創薬。AIと言われて何となく思い浮かべるのは、鉄腕アトムのようなロボットとか、SF映画で見られるような、コンピュータが人間を支配するようなイメージもあろうかと思う。そう言えば、近い将来、AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないかという話もある。
AIは人では処理しきれない大量のデータを瞬時に解析できるような印象もある。そうだとすると、データベース構築の先にはどれも同じ答えが待っているのかなという疑問も浮かんでくる。今日の会場にも私と同じようにAIに関して知識を持たない方もいらっしゃるかと思うが、AIの入門から応用までを各先生方にお話いただけるはずなので大いに刺激になろうかと思う。パネルディスカッションにも多くの時間を割いているので、皆さんの活発な議論に期待している。

講演1

宮田 裕章氏の写真

データ駆動型社会におけるヘルスケアの革命

慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学教室 教授
宮田 裕章

現在第3次ブームにあるAIは、ディープラーニングを核にスタンダードとなりつつあるが、同時に「過度な期待」に対する幻滅期を迎え、これからは「本物」の活用だけが残っていくだろう。その意味では、今は重要な転換期にあると言える。世界の主軸は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される米国、中国、EU。グーグルのAI「アルファ碁」が世界最強棋士に勝利したのは記憶に新しいが、同社はそのような技術を応用し、光学顕微鏡と連動したがん検出を支援するサービスを提案した。中国でもAIを活用した診断システムが医療の現場で使われ始めている。国内でもオリンパスがAIを搭載した内視鏡画像診断支援システムを発表したところだ。AIの進化において医療分野は重要なポジションにあり、データ駆動型社会の中で、どのような環境下でビッグデータを活用していくかが重要となる。
20世紀に世界を動かしたのは石油だったが、2012年には石油メジャー4社の時価総額をデータメジャー4社が抜き、その後数年で数倍に伸びている。アマゾンの利益はIaaS型のクラウド市場で急激に伸張しており、マイクロソフトや中国のアリババがそれに続く。IaaS型クラウドの市場調査結果を見ても日本企業の姿は見当たらない。
アマゾンは、JPモルガンなどと組んで「Haven」という名で新しい医療ビジネスを開始しようとしている。さらに医薬品ネット通販ピルパックを買収し、デリバリーそのものも変革しようとしている。デジタルヘルスの先駆けとして注目されているもののひとつがバビロンヘルスのスマホアプリ「AIドクター」で、検証段階ではあるが利用者の約半数の受診を抑制できたとされる。アップルのクックCEOが今年1月、「もし将来、過去を振り返った際に、アップルが人類のために果たした最大の貢献は何だったかと問われたら、それはきっと健康に関したこと、と答えるだろう」と述べたとおり、アップルもApple Watchなどによりヘルスケア領域に大きく軸足を切っている。
中国では、社会信用スコアの活用が進んでいる。データ活用によりビジネスが広がっているが、これがヘルスケアに及ぶと、サービス対象が人口の大多数を占める重症患者の予備軍にまで広がり、サービスそのもののパラダイムシフトを起こす可能性がある。企業主導のアメリカ型、国家主導の中国型に対し、EUでは2018年5月に施行されたGDPR(General Data Protection Regulation)により、個人がデータに対しアクセス権を持つようになった。
そんな中、日本はどこに向かうべきなのか。病気にならない、病気を治すという従来の観点だけでなく、魅力的な生き方をしながら自然と健康になる、あるいは格差や病気があってもそれを人生の障がいと意識することがないといったライフデザインのソリューションをつくっていく必要がある。
8年間のデータをすべてつなげたCOPDの早期発見・治療の事例では、過去の受診状況のデータを活用することでレセプトデータだけでは分からない疾患が見えてきたり、あるいは介護から死亡までデータによってどういう人生を過ごされたかなどが分かるようになってきた。これらデータをオプトインすることで製薬企業も活用できるようになり、例えば既存の薬を組み合わせながら個別症例を同定して薬効を高めることなどが期待できる。また、より早期な段階で投薬できれば医療費の抑制につなげられる。HTAを攻めの視点で行っていくことも今後できるようになるだろう。
アメリカ型、EU型、中国型の強みを活かしながら、データを所有財としてだけでなく共有剤としての側面も考慮し、新しい健康の価値を様々なプレイヤーの連携で共につくりあげていく。それがこれからの日本型ヘルスケアの理想と言える。

講演2

新田 隆夫氏の写真

我が国のAI原則/AI戦略について

内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官
新田 隆夫

先ほど中国から帰ってきたばかりだが、中国のAIの発展を目の当たりにしてきた。政府としては、AIの社会実装をどう加速していくか、米国や中国にいかにして伍していくかが大きな課題と考えている。
AI倫理に関する世界の動きについて。欧州では2019年4月9日に「信頼できるAIのための倫理ガイドライン」が策定されたが、その1週間前に日本はAI原則を作成している。ユネスコ、OECD、中国、米国、シンガポールなどでも、AIに関する人々の不安を払拭するための社会原則の策定が進んでいる。現在、日本ではAI戦略をまとめているところだが、先に策定したAI社会原則は「人間中心の社会」がキーワードに、@人間の尊厳、A多様性・包摂性、B持続可能性、という尊重すべき3つの基本理念と、それを実現するための、@人間中心、A教育・リテラシー、B公正競争確保、C公平性、説明責任及び透明性、Dイノベーション、Eセキュリティ確保、Fプライバシー確保、という7つの原則に基づいている。6月のG20大阪サミットの宣言にAI原則を盛り込めないか議論しているところだ。
AI戦略は、@人材、A産業競争力、B技術体系、C国際、という4つの戦略目標を掲げ、教育改革、研究開発、社会実装、データ関連基盤の構築、デジタルガバメント、中小・新興企業支援、AI社会原則の確立に取り組んでいる。国の基盤である教育システムをどう変えていくかが重要なテーマ。数理・データサイエンス・AIに取り組む大学を政府としていかに応援していくかを考えていく必要がある。
研究開発については、サイバー空間で集めるデータ保有数で海外と勝負するのはなかなか難しいが、まだ90%は集めきれていないと言われる実社会のデータを品質を考慮して集積し、うまく解析できれば勝機がある。健康・医療・介護、農業、ものづくりの領域など、実社会を対象にデータを集めている研究開発機関は多数あるので、戦略的にそれらのネットワーク構築に取り組んでいく。また、少ないデータでも学習できたり、多言語音声を翻訳できるような次世代AI基盤技術により、特徴ある創発研究を推進していく。社会実装については、いかに現場のニーズを取り込むかが重要だ。AIを安全・安心に社会実装するためには、信頼できる品質のデータのよりAI製品・サービスの信頼性を担保するしくみが欠かせない。申し上げた戦略については、今年6月に策定予定の「統合イノベーション戦略2019」の中でとりまとめていく。
便利であれば何でもいいという技術では世界に受け容れられない。「人間中心」に基づく健全な社会実装により世界をリードしていこうというのが日本政府のAI戦略の基本的な考え方である。

講演3

浅沼 一成氏の写真

AIは創薬に何をもたらすか
─日本の強みをどう生かすか─

厚生労働省 大臣官房厚生科学課長
浅沼 一成

平成25年の薬事法(現、薬機法)の改正に携わったが、その改正では医療機器を動かすコンピュータプログラムの更新を簡便にできないかという機器メーカーの声が反映し、無体物であるプログラムも医療機器として定義をした。
それから5年経ち、コンピュータプログラム技術であるAIは、想像を超える速度で進化している。私自身も日々悩んでいるところであり、今回のシンポジウムで皆さんと共に考えていきたい。
厚労省では平成29年、ディープラーニングの登場により新たな局面を迎えたAIの保健医療分野への活用について検討することを目的として、「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」を設けた。
ここで @我が国における医療技術の強みの発揮、A我が国の保健医療分野の課題の解決(医療情報の増大、医師の偏在など)の両面から、@ゲノム医療、A画像診断支援、B診断・治療支援、C医薬品開発、D介護・認知症、E手術支援、という今後進めるべき6領域を設定した。例えば、医薬品開発について、我が国は医薬品創出能力を持つ数少ない国のひとつであり、技術貿易収支でも大幅な黒字であるという強みがある。そこで、製薬企業とIT企業のマッチング支援や、創薬ターゲットの探索に向けた知識データベースの構築が急務となる。
そこで、こうした課題を解決する道筋を立てるため、厚労省では2018年7月、「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を設置した。座長はソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏にお願いし、諸外国に遅れをとることなく、いかに日本の強みを活かしていくかを検討している。その結果、先の6領域以外の、例えば予防、介護・福祉などへのAI活用も同時に検討を進めることとなった。
本日の本題である医薬品開発は、通常10年以上の開発期間を要し、成功確率も2万分の1と言われる。その背景には応用研究の難しさの他に、創薬ターゲットの枯渇がある。そこで、PRISM事業「新薬創出を加速する人工知能の開発」において、データベース構築の加速、関連するデータの追加、解析能力の強化、検証能力の効率化を、文科省、経産省、理研、大学、産業界などと共に進めている。具体的には、持続可能な事業とするためのヘルスケア・オープンプラットフォームの構築などがある。
また、肺がん統合データベース構築とデータ解析(国立がん研究センター)、医療テキストの言語解析と知識ベース構築(京都大学)、AIによる探索アルゴリズム開発(理化学研究所AIP)、疾患ネットワークの自動構築とそれを用いた推論技術の開発(産業技術総合研究所)、創薬ターゲット候補分子と疾患の関連を予測するシステムの開発(九州工業大学)などのプロジェクトをAI創薬のアドオン施策として、医薬品開発の加速化を図っている。
日本の強みは「まじめ」であること。よって、データの質が極めて高い。このデータを活かしたうえでデータベースを構築することが、創薬ターゲットの探索に大きく貢献するだろう。医療従事者の不足・偏在、ヒューマンエラー、急増する世界の知見・文献という課題がある中、AIの活用により、@全国どこでも安心して最先端の医療が受けられる環境の整備、A患者の治療等に専念できるための医療・介護従事者の負担軽減、そして B新たな診断方法や治療方法の創出が、大いに期待されている。

講演4

奥野 恭史の写真

AIが拓く創薬イノベーション

京都大学大学院 医学研究科ビッグデータ医科学分野教授 理化学研究所 MIH/RCH/BDR/R-CCS 副PD
ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC) 代表
奥野 恭史

日本はアジア唯一の新薬開発国であり、製薬企業は世界でも突出している。しかし日本に限らず医薬品の開発費は莫大で、その他製造業と比べて開発比率も大きいことが課題で、AIの活用に期待が寄せられている。AIにおける日本の強みは、日本の製薬メーカーはASEANトップであり、中国にも負けていないことであろう。AIは例えれば、PCにおけるWindowsやMacのようなOSのようなもの。残念ながら日本にはそのようなインフラでは勝てそうにないが、重要なのは応用へのシフトチェンジ。「AIを何に使うのか」ということを真剣に考えなくてはいけない。それが今日、私がいちばん言いたいことだ。
2016年11月、京都大学は、製薬メーカー、ITメーカーなどとタッグを組み、ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)を立ち上げた。AIを現場で応用する際、問題になるのは、現場でAIを使っていく方とAIを開発するIT側とのコミュニケーションをいかに円滑にするか。LINCでは、文化の異なるライフ業界とIT業界のマッチングに主眼を置き、非競争領域で協調して開発していくべく活動している。参画機関のマンパワー持出により汎用的なベースとなる技術はLINCでつくり、各製薬メーカーはそれぞれチューンアップして活用していただくことになる。
LINCでは、医薬品開発プロセスの全域にわたる30を超えるAIを並列して一気に開発している。例えば「どんな疾患の薬を開発すればよい?」と最初のAIに問い合わせると「病気A」がはじき出される。2番目のAIに「病気Aの原因タンパク」を問い合わせると「標的タンパクX」という答えが出て、以下、薬物候補化合物、薬効、副作用、安定性などを問い合わせ、それぞれのAIに答えさせるようなもの。はやい(時のシェア)、やすい(金のシェア)、うまい(知のシェア)を追求して世界で抜きんでることを目指し、2020年9月のプロトタイプ完成を計画している。30種のAIを連結・統合し持続的に利活用できるよう、医薬基盤・健康・栄養研究所、理化学研究所、京大病院の3拠点が連携しての知識ベースの構築とともに、AI開発環境のインフラを構築している。なお、AIは知識をつくるものなので、AIの流出は知識そのもの流出となる。製薬メーカーの優位性が流出する危険性があるので、日本の中で守っていかなければならないと考える。
AIによる創薬は、様々な実験データを学習させ、自動的に化学構造をデザインさせるもの。例えばCDK2といったたんぱく質の名称を入力するだけで、結合する化合物をAIに考えてもらうことができる。また、有望提携先や研究テーマの自動検索というプロジェクトがある。これは研究者のネットワークをAIに学習させ、企業の開発のために必要な有望な研究者を探すことができるもの。探索テーマを入力すると、研究者名が成長曲線とともにリストアップされる。その他、健康診断データによる3年後の発症予測を行うAIなども開発されている。2030年には現在開発している約30種のAIを連結することが可能なのではないかと考えている。これにより我が国の製薬産業が世界をリードするものになればと思っているので皆さんの協力をぜひお願いしたい。

ショートスピーチ1

塚原 克平氏の写真

Data Driven Drug Discovery & Development (5D)
デジタル技術がもたらす創薬のパラダイムシフトと新しい価値創造

エーザイ株式会社上席執行役員 筑波研究所長 兼 hhcデータクリエーションセンター長 日本製薬工業協会 研究開発委員会 副委員長 塚原 克平

「データによる仮説検証」から「データからの仮説生成」へとパラダイムシフトが起きている。膨大なデータが使えるようになると、AIで新しい仮説を生成させ、それを検証していくという逆の流れになってくる。エーザイは第4次産業革命を「データによって生み出される価値を用いて、今まで見たこともないものや状況をつくりだすこと」と捉え、新しい創薬ビジョンとして5D(Data-driven Drug Discovery and Development)を提唱した。AIにより様々なデータから仮説を生成するサステナブルな流れの中で、新しいターゲットの発見や様々な効率化がなされ、低コストで成功確率の高い創薬が可能になる。医療ビッグデータが整備され、個人ヘルスケアデータの利活用が進めば、創薬のみならず、疾患リスクの予測・予防・治療後のケア、さらにはアクセスの改善など、人々のライフコースに新しい価値を提供することができるようになるだろう。
私たちはデータの時代を予見し、2010年から研究データの整備を開始したが、2016年、クラウドコンピューティングに移行することでリアルワールドデータのような新しいデータを格納。そして今年からはこれまで蓄積してきた臨床/健康管理データを格納し、利活用するフェーズに入った。今後は個人の健康データやプラットフォームデータの格納による充実が図られると考えられる。
エーザイにおけるAI実用化の一部を紹介する。@化学構造展開に苦しんでいたマラリア創薬プロジェクトに対し、独自に構築したAIを使って構造展開仮説を生成させることで、活性と物性を同時に改善することに成功した。A睡眠障害治療薬の創薬過程で膨大な睡眠脳波データを蓄積したが、これを読み解くには熟練の研究者が必要。この「匠の感覚」をディープラーニングにより模写し、96.73%という精度で一致させるAIを開発した。これにより研究者の負担軽減と研究期間の短縮に貢献した。BMRIの画像のみによって、2年後にMCI(軽度認知障害)が悪化するかどうかを予測するAIを開発。90%以上の精度で判定できることが分かった。これら技術は、本当に薬が必要な人に薬を届けること、治験の大幅な効率化にも貢献できるものと考えている。

ショートスピーチ2

赤塚 浩之氏の写真

研究開発ステージでのAI活用─製薬企業での取り組み─

日本製薬工業協会 研究開発委員会 専門委員長
田辺三菱製薬株式会社 医療政策部 イノベーション企画グループ担当部長
赤塚 浩之

製薬協の「政策提言2019」の中からAIに関する部分を紹介する。創薬の研究ステージ、開発ステージおいて、様々なニーズを議論した。AIにはやはりデータが重要だが、各ステージにより必要なデータは異なってくる。製薬企業は各社とも様々な目的でAIを活用しているが、特徴としては臨床データの活用が多い。革新的な医薬品の創出、医療の精密化の実現のためには、ゲノムやオミックス、画像などのデータが連結された臨床データが必要。早期治療・予防のためには、そこに個人の介護情報や行動情報などのライフコースデータがつながることが重要となる。政策提言2019は製薬協ホームページで閲覧できるので参照されたい。
「製薬協 政策提言2019」http://www.jpma.or.jp/event_media/release/news2019/190124_1.html
政策提言における具体的な取り組みとしては、@創薬ターゲット・バイオマーカー探索に向けた検討がある。参画する製薬企業はデータベースにアクセスし、自社研究に活用するとともに、様々な情報を複合的に解析するAIの開発を進め、新たな発想に基づく新規創薬プロジェクトを立案できるようにする。A創薬プロセスの高度化・効率化に向けた検討では、参画企業が化合物構造、物性や毒性など低分子薬の各種データを提供することでデータベースを構築。共有AIの開発を推進し、低分子創薬の強化・効率化を図っていく。数やバリエーションだけでなく、付加価値をどう生み出していくかも議論の対象となっている。
田辺三菱製薬の取り組みとしては、臨床試験計画支援AI「CRAFT」がある。論文などのデータ収集を支援するAIと、治験デザインを支援するAIを組み合わせることで、成功確率の向上と治験期間の短縮を目指している。
医薬品開発におけるAI活用に向けた課題としては、質の高いデータを統合し、経時的に収集・解析ができる基盤の構築、データ利活用に向けた環境整備、人材不足への対応、また、成果の帰属と利益配分の明確化などが考えられる。

パネルディスカッション

パネルディスカッションのようす

パネルディスカッションは、まず各演者の補足説明がなされた。シンポジウム冒頭に、白神座長が製薬企業間の差別化について疑問を呈したが、これに対し奥野先生は「AIは個性。同じ基盤であっても、各社がチューンアップする段階でそのコンセプトにより個性なり付加価値が生まれるもの」と説明した。

会場からは、大学、製薬企業、保険関係者などから多くの質問や意見が寄せられた。人材育成の課題については本編でも触れられたが、製薬企業からはデータのマネジメントを行うデータサイエンティストの不足についての指摘もなされた。「我が国はもっと、ITに強い若い人たちが活躍できる社会が求められている」という奥野先生の意見でパネルディスカッションは締めくくられた。