シンポジウムの様子
さる10月19日(金)、東京・大手町の経団連会館において、第17回シンポジウムが開催されました。今年のテーマは「医療法人制度改革の評価と今後の課題」。医療の非営利性及び公益性や経営の透明性などについて、さまざまな問題提起がなされている医療法人制度改革にスポットを当て、行政から、病院経営サイドから、そして資金調達面、税制面からの多彩な提言がなされました。
定員150名ほどの1階席は、病院経営者をはじめ医業経営コンサルタントや研究者を中心とする参加者に埋め尽くされ、予備の2階席も満員となる盛況のなか、森亘・医療科学研究所理事長の開会挨拶によって幕が開きました。第1部のシンポジスト発表の後、第2部では参加者による質問とその回答、そして、医療法人制度の将来展望について、田中滋座長を含めての活発な議論がなされ、嶋口充輝研究所長の閉会挨拶により、盛況のうちに幕を閉じました。
未だ改革の途にある医療法人制度ではありますが、各分野の第一線で活躍されるシンポジストによる発表と意見交換がなされたことにより、制度が抱える問題への新たな理解が深まったものと確信しております。
事務局による座長挨拶および各シンポジストの発表内容の要約は、次の通りです。
13:30 | 開会挨拶 | 財団法人 医療科学研究所理事長 | 森 亘 |
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13:40 | 来賓挨拶 | 厚生労働省 医政局長 | 外口 崇 |
13:50 | 座長挨拶 | 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科教授 財団法人 医療科学研究所評議員 |
田中 滋 |
14:05 | シンポジスト発表 (各15分) (五十音順) |
厚生労働省 医政局指導課長 | 佐藤 敏信 |
全日本病院協会 会長 | 西澤 寛俊 | ||
公認会計士 | 牧 健太郎 | ||
明治安田生活福祉研究所 主任研究員 | 松原 由美 | ||
15:05 | 休 憩 | ||
15:25 | 総合討論 | ||
17:15 | 座長まとめ | ||
17:25 | 閉会挨拶 | 財団法人 医療科学研究所 研究所長 | 嶋口 充輝 |
17:30 | 閉 会 |
慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
財団法人医療科学研究所評議員
田中滋
わが国の現状の課題としては、かつてブレアが英国の医療について指摘した
などと同様の問題点が挙げられる。英国のサッチャー政権時代に行われた医療の切り詰めは、後の英国に医療の疲弊をもたらしたが、現在の日本は周年遅れでほとんど同じ姿になっている。
医療法人制度は1950年に発足。その後一人医師医療法人が認められるようになり、4万を超える医療法人のうち、95%は出資持分がある状況。この点は、「法人」としての学校法人、社会福祉法人、宗教法人との最大の違いと言える。つまり理念との乖離が起きてしまっている。これに加え、公益法人改革、規制改革会議等による医療の市場経済化圧力など、環境要因が変化している状況があった。そこで、非営利性に加え、公益性を踏まえた医療法人の在り方をカウンター論議として提出した。さらに現状の課題は
などである。病院が法人として、透明性、ガバナンスの高い経営を行い、社会貢献による世間の指示を集めることにより、社会資本として医療が大切だという論理を打ち立てる必要を痛感している。
厚生労働省医政局指導課課長
佐藤敏信
昭和60年の設立要件緩和以降、一人医師医療法人数が増加。現在の44,027法人のうち、36,973法人が一人医師医療法人となっている。
医療法改正の経緯としては、昭和23年の医療法制定以来、昭和60年の第一次改正まで大きな改正はなかった。これは医療費としての財源にかげりが見えてきた頃と時期が重なる。今回(平成18年)の第五次改正では、医療法人制度の見直しのほか、情報の公表制度、医療従事者の再教育制度などが制定された。
平成19年4月以降の医療法人の類型について。特別医療法人については5年の猶予の後、消滅。変わって、社会医療法人という新しい制度が設けられた。出資額限度法人、持分あり法人については経過措置として存続するが、持分のないその他の医療法人に、あるいは実績を積んで特定医療法人、社会医療法人に移行していただきたい。
医療法改正(医療法人制度関連)のポイントには、
などがある。残余財産の帰属先については個人を除外し、新規医療法人は財団または持分なし社団に限定するなど、非営利性の徹底がなされている。社会医療法人制度は、へき地医療などの救急医療等確保事業を公益性の高い医療と位置付け、認定していこうというもの。社会医療法人には、収益業務が実施可能、社会医療法人債の発行が可能といったメリットがある。
今後は、以下のような留意すべきことが考えられる。
全日本病院協会会長
中央社会保険医療協議会委員
特別医療法人恵和会理事長
西澤寛俊
昭和25年に制度化された医療法人は、「剰余金の配当をしてはならない」という規定のもと「営利を目的としない」民間非営利部門の法人として現在に至る。しかしながら、表向きには非営利と言えども、事実上は営利ではないかとの指摘があり、これを明確に否定することができなくなったのではないか。私たち病院は、国民に質の高い医療を提供するのが使命なので、「株式会社」ではなく、「非営利」の選択肢をとった。
医療法人制度改革の目的は、医療法人をより非営利性、公益性の高い方向へ誘導していくとともに、その基盤強化を図り、地域の保健医療提供体制を「公中心」から「民中心」にしていくこと。これがかなり重要なことで、「その地域における重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない」と条文化されている。医療計画の見直しについても「官から民へ、国から地方へ」という観点が重要。
非営利法人の中でも公益性の高いサービスを提供する法人として、社会医療法人を想定。設定要件の中に医療計画に記載された救急医療等確保事業の5事業(災害時における医療、周産期医療、地域医療、へき地医療、小児医療)があるが、この他に「都道府県において特に必要な医療」が重要と考える。自治体立病院など公的医療機関のこれまでの役割も見直しが必要。都道府県は自らが自治体病院を設置して直接的に医療サービスを提供する役割から極力撤退し、医療サービスに係るルールを調整する役割、医療サービスの安全性やアクセスの公平性を確保する役割への転換が求められる。
医療法人制度改革の基本的な考え方としては、「官から民への流れ」「官民のイコールフッティング」を踏まえ、従来公立病院等が担っていた医療を民間の医療法人が積極的に担うよう推進することがポイント。医療法人制度改革が進んでいくと流れが変わっていく。医療法人の責任はより大きくなるので、これからはより高度な医療を提供する、そして国民の信頼を得ることが大事である。
個々の中小病院や有床診療所が地域で果たすべき機能・役割は、地域のさまざまな状況に応じて、医療計画においても可能な限り、具体的に明記されるべき。5事業以外でも、医療計画に即し活動しているのであれば、地域への貢献度も高く、社会医療法人として認められるべき。地域一般病棟の役割は、地域ケアを中軸としたトータル・ケアサービス、地域に置ける医療機関と介護施設とのネットワークなどで、診療所と大病院の間にあることで地域間の連携対策になる。
今後の課題は、以下のような税制の問題、
そして、公益法人制度改革との整合性が挙げられる。
明治安田生活福祉研究所主任研究員
松原由美
医療法人制度改革の資金調達面において評価すべき点は、
個人企業的、ドンブリ勘定的体質からの脱皮や、経営内容把握の進展によって、外部からの信頼度向上に寄与。さらに、資金調達の多様化に大きな一歩を踏み出したと言える。
今後の課題としては、資金調達に困っている層が依然としてそのまま放置されていることを指摘したい。もっともこの問題は、行政がメインに対応するというよりも、むしろ民間の中で知恵を出し合って解決すべき問題と考える。
病院の資金調達をマクロ的な視点で捉えた場合のポイントは、病院経営者が経営に熱意をもち、かつ地域に必要とされている病院であるにもかかわらず、必ずしも資金調達が円滑に行われていない病院の資金調達をいかに容易化するか。こうした病院は信用力が十分ではなく、銀行借入などがスムーズではないケース(希望する満額が調達できない、連帯保証を要求されるなど)が多い。行政による医療機関債発行ガイドライン、社会医療法人債発行制度の導入は、こうした病院に対しては十分な対応とは言えない。また、民によるSPCマネーの利用やリスクマネーの導入などは、非営利性への抵触や、病院の資金調達としての適合性にも疑問が残り、着実に普及しているとは言い難いのが現状。
上記のような病院の資金調達を円滑化する方法を、アイデア段階ながら3つ挙げる。
公認会計士
牧健太郎
営利/非営利、公益/非公益という概念は、別の概念。営利/非営利は、利益を株主などの出資者に配分するか否かという概念であり、非営利が儲けてはいけないということではない。公益/非公益は、不特定多数に対して活動の成果が還元されるか否かが判断基準である。個人(立医療機関)は営利、株式会社(立医療機関)も営利と言える。今回の医療法人制度改革では、決算配当だけでなく、解散時の剰余金配当もできなくなり、非営利性が担保されたといえる。ただし、医療法人のすべてを一括して議論するのは、実態にそぐわない危険もはらむ。
医療法人と会社の違いは、行為能力の問題。医療法人は特定目的のために設立が認められるものであるため、例えば貸駐車場を運営するのは特別医療法人以外は厳密に言えば違法行為となる。医療法人という法主体がそもそも何のために設立が認められるのかを再考しなくては、今後の改革は次の段階に進めないのではないか。また、医療法人は剰余金の配当をしてはならない点でも会社とは異なる。
医療法人の法人税は、株式会社と同じで利益に対して30%の課税だが、特定医療法人認可を受けると22%の軽減税率となる。公益法人立病院も22%、医師会病院は非課税、学校法人立病院は非課税、国立病院・自治体立病院・独立行政法人立病院は非課税、個人立病院は個人としての所得税課税となる。
税の面から、株式会社立病院を医療法人化するとどうなるか?消費税法上、医療法人は支払っている消費税のほとんどを控除できないため、損税が発生している。株式会社立病院を医療法人立病院に組織変更すると、消費税の損税で赤字に転落するようなケースがシミュレーションで出ている。
公益法人立病院は、年間患者延数の1/10以上に自己負担減免等を行っていれば社会貢献とみなされ、法人税免除となる。社団法人である医師会立病院は、非課税だが、今度の改正でどうなるか注目されている。
また、特定医療法人は、さまざまな要件を満たすことで22%の軽減税率適用となっている。今後、社会医療法人に、税制優遇措置が加えられるにあたり、旧来の特定医療法人制度がどうなるかは今のところ分からないので、病院経営者にアドバイスするのが難しい状況にある。
既存の持分法人から基金拠出型医療法人に移行したい場合は、剰余金の取扱いに関する定款変更を行えばよい。ただし、持分放棄に係る課税関係には不明確な点がある。持分放棄行為に対する免税措置を簡単に認めてしまうと、租税回避行為だけを目的とする基金拠出型医療法人への移行が頻発し、社会的な不平等が生じる可能性もある。
なお、医療法人の経営環境が悪化する中、経営破綻に関する諸政策の整備も望まれる。以下のような項目の検討が望ましい。
医療提供体制の根本を定める法律は、1948年に制定された医療法である。その医療法に定める医療法人制度は、「医療経営の経済困難を緩和し経営の永続性と資金集積の容易性を確保するため」に1950年に発足した。その後の一人医師医療法人設立もあって、我が国の医療法人数は今では4万を超えるに至ったが、うち95%は「出資持分ある医療法人」に区分される。この点は、出資者持分が存在しない学校法人、社会福祉法人、宗教法人と大きく異なっている。この持分ゆえ、また経常利益率の相対的な高さもあって、保健医療業は課税対象として扱われ、中小企業と同じ法人税率が適用されている。加えて、高度経済成長期を含む土地評価額の上昇と、貸借対照表の貸方側に記録される利益の蓄積がもたらす潜在的配当原資(退社時ならびに解散時)の拡大という、当初には想定していなかった経過をたどってきた。
こうした問題意識を受け、医療法における基本理念である「医療の非営利性」を確実に担保することを念頭に医療制度についても改正が平成18年に行なわれた。それを含め、医療法人制度改革にはいくつかのルーツがある。第一に、広くみれば民法法人をはじめとする国全体の公益法人制度改革の一環と位置づけられる。第二に、規制改革会議等の“市場経済原理主義派”が唱えた「株式会社病院参入により医療が効率化する」といったまったくエビデンスの伴わぬ主張に対し、社会資本としての医療システムの理念に立ち返った「公益性をもつ医療経営のあり方」を確立するとの強い意図もこめられている。第三に、前項とは逆説的ではあるが、地域と患者に役立つ医療機関経営の近代化のために(決して株主利益のためではなく)、優れた企業の経営手法を積極的に取り入れる基盤をつくる側面も指摘できる。具体的には法人のガバナンス明確化や資金調達が典型である。
しかし、旧来の持分あり医療法人には「当分の間」条項が適用されている点は、営利・非営利、および医療の公益性をめぐる理論の進化から評価すると、まだ中途半端な改革であると言わざるをえない。
本シンポジウムでは、社会医療法人・基金拠出型医療法人・定款による出資額限度法人・旧来からの医療法人財団および社団・特定医療法人など多様な形態の意味と役割を整理し、今回の改革の評価と残された課題を明らかにすると共に、将来の方向を自由に論ずる予定である。