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シンポジウム

医研シンポジウム 第18回シンポジウム
在宅ケアと街づくり―高度高齢化社会の新たな課題
 

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

さる10月17日(金)、東京・大手町の経団連会館において、第18回シンポジウムが開催されました。今年のテーマは「在宅ケアと街づくり─高度高齢化社会の新たな課題」。在宅ケアの推進に向け、「医療」「住」そして「地方」という異なる観点から、専門家による実践に基づいた提言がなされました。
介護支援団体や医療施設のケアセンターなどを中心に、各界からこれまでにないほど大勢の参加者で埋め尽くされた会場には、ラフなスタイルの学生の姿も数多く見られ、今回のテーマへの関心の高さがうかがわれました。第1部のシンポジスト発表の後、第2部では参加者による質問を軸に、松田晋哉座長を含めての盛んな意見交換がなされ、4時間に及ぶシンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。

開催概要

日 時
2008年10月17日(金)
午後1時30分〜5時30分
会 場
経団連会館 11階 国際会議場
〒100-8188 東京都千代田区大手町1-9-4
主 催
財団法人 医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

13:30 開会挨拶 財団法人 医療科学研究所 理事長 森 亘
13:40 来賓挨拶 厚生労働省 医政局長 外口 崇
13:50 座長挨拶 産業医科大学 公衆衛生学教室 教授 松田 晋哉
14:05 シンポジスト発表
(各15分)
(五十音順)
医療法人社団 永生会 理事長 安藤 高朗
竹中工務店 役員補佐 水田 恒樹
元高知市保健所 健康づくり課・保健師 吉永 智子
東京大学大学院 医学系研究科 教授 橋本 英樹
15:05 休 憩
15:25 総合討論
17:15 座長まとめ
17:25 閉会挨拶 財団法人 医療科学研究所 研究所長 嶋口 充輝
17:30 閉 会

座長挨拶

産業医科大学公衆衛生学教室教授 松田 晋哉

在宅ケアと街づくり〜高齢化社会の新たな課題〜

産業医科大学 公衆衛生学教室 教授
松田 晋哉

2025年の人口構造予測では、さらに少子化が進み、高齢者が増えてくる。これは確実な未来である。財政面やサービス面において、少なくなる現役世代が、増加する高齢者をどこまで支えきれるか。これはかなり厳しいテーマであることは明白であり、今から準備しておかなくてはならない。

社会の高齢化と社会保障制度の課題としては、医療費・介護給付費の適正化が議論の中心となっているが、高齢期の生活保障、すなわち所得保障、住の保障、生きがいの保障、これら問題を抜きにして活力ある高齢社会の実現は不可能であろう。

急性期病院は、DPCなどの情報公開、質の向上などにより、患者に“選ばれる病院”になる。そうすると患者が集中し、適正な稼働ができなくなる。今後は慢性期の患者を支えていくための新しい枠組を考える必要がある。例えば欧米では、患者宅のベッドを病床とみなし、病院の医療スタッフが在宅で医療を提供する「在宅入院制度」が推進されているが、こうしたものが将来的には日本でも必要ではないか。

「施設ケア」から「コミュニティケア」という考え方が重要。年間170万人が死亡する時代が到来すると、すべての患者を病院などの施設が長期にケアすることは不可能。外来医療の延長線上に新たな枠組が必要となるが、それは施設か在宅かという二者の選択ではなく、重なりと連続性をもった柔軟なシステムでなくてはならない。各地域において、病院、調剤薬局、訪問看護ステーションなどと在宅患者を、移送サービスなどでつなぐ「シェアードシステム」が必要になってくるだろう。

また、リハビリテーションによる動作性の向上が患者の日常生活の活発化に結びついていない場合が多いという批判がある。どんな病院や介護施設でリハビリテーションを行っても、そこでサービスを受けられるのは1週間のうちの数時間。自宅に戻ったときに出かける場所がなければ閉じこもりがちになってしまう。行動範囲の制限は、意欲・関心の低下につながり、生きがいの低下を招く。こうした悪循環を断つために、せっかく歩けるようになった方が積極的に出て行けるような街をつくっていかなくてはならない。

オランダでは、地域の高齢者やボランティア組織が地方自治体の委託により、市街地の空き部屋などでコミュニティレストランを経営している。独居老人や障害者などが1日に1度は家を出て、暖かい食事をとっている。コミュニケーションや生活リハビリの場であるだけでなく、働くことができる高齢者への活躍の場の提供という役目も担う。青森の浅虫温泉にはこれと似たレストランがあり、地域の安心を保障する社会的インフラ(医療施設門前町)となっている。

こうしたことの背景には「保健民主主義(Health Democracy)」という考え方がある。従来は政府のトップダウンで政策が実行されたが、ミドルグループが関係者の間に入り、情報を収集・分析して政策決定者に提言することにより、複数案の中から政策を実行していこうというもの。フランスなどで実践されている。

社会保障財政を好転させる特効薬は何かないのか。ひとつは労働人口を増やすしかない。元気な高齢者の就業率を高めていく必要がある。専門的技能をもっていること。職住近接であること。健康であること。経済学の清家篤教授は、この3点が高齢者が労働を継続できる条件として重要としている。
活力ある高齢化社会実現のためには以下の点が重要である。

  • 保健・医療は重要な社会的インフラ
  • しかし、それだけでは不十分
  • 高齢者の雇用政策・住宅政策などの社会政策との連動が不可欠
  • 高齢者を単なるサービスの受け手と考えることは誤り
  • 保健民主主義とパートナーシップ
  • 新しいコミュニティづくり
  • 関心緑の核としての医療機関→医療施設門前町

シンポジスト発表

医療法人社団永生会理事長 安藤 高朗

在宅ケアと街づくり〜高齢化社会の新たな課題〜

医療法人社団 永生会 理事長
安藤 高朗

永生会では、回復期リハ病棟、療養病棟(介護・医療)をもつ永生病院の他、介護老人保健施設、4つの訪問看護ステーション、地域包括支援センター、ケアプランセンター、ヘルパーステーションを運営するほか、平成20年にはグループホームと保育所の合体型施設の開設を予定。施設サービスと在宅サービスを展開している。この2つが地域の大きな車輪となり、その車輪の軸をリハビリテーションセンターとすることで街づくりに貢献したく考えている。

現在、問題となっているのは、急性期病棟の平均在院日数が次第に短くなっていることで、医療必要度の高い患者や認知症を合併した患者が病院を出されてしまっているのが現状。また、現在は年間に100万人の方が亡くなられているが、2038年には170万人に増加すると報道されており、これをどう対処するかが大きな課題となっている。

在宅支援の課題について。在宅療養支援診療所は1万箇所ほどあるが、ヒアリングしてみると「24時間をチームでやったとしても携帯電話で常に束縛されているのは相当にきつい」「在宅療養支援診療所をバックアップする中小病院や療養病床が必要」という声が聞かれる。今後の中小病院・療養病床が在宅や介護施設からの急変を受けられれば、急性期病院の疲弊も軽減されるだろう。また看取りの教育も必要と言える。

今後の療養病床は、地域支援型高齢者医療拠点としてバージョンアップする必要がある。急性期、在宅からの受け皿としてだけでなく、例えば、緩和ケア、ターミナルケア、24時間対応、往診、訪問診療を行っていかなくてはならない。

永生会は、慢性期病院であっても地域に根付き、ありとあらゆる地域活動を行っていこうという方針。病院や老健施設でも催しを行うが、施設に来ていただくだけではなく、我々の方から地域に出ていってさまざまな活動を行っている。

例えば、訪問看護ステーションをご利用いただいている方々からの「旅行に行きたい」という声を受け、数年前よりバスツアーを行っている。ほとんどが要介護3〜4の方だが、車いすのまま乗車できるバスを利用し、旅先では宴会や入浴などで楽しんでいただいている。医師、ナース、リハビリスタッフでチームを編成して取り組んでいる。

当病院では、障害の度合いや座り方などをインプットすると、その方にもっとも適した車いすが選択できる、独自に開発したソフトを活用。患者や家族に喜ばれている。好みの色を自由に選択できるようになると、さらに楽しいのではないか。
八王子の認知症のネットワークに参加している。八王子には、精神病院、老人病院、介護施設が多く、利用者の50〜70%ほどが何らかの認知症であり、そのデータベースを活用していこうという取り組み。こうしたことも今後の街づくりに必要ではないかと考えている。

今後ますます高齢者が増加してくると、ケア付きの高齢者住宅にリハビリ設備があって、そこで制限なく潤沢な訪問診療、訪問看護、訪問ヘルプサービスが受けられるような施設が望ましい。病院と近接した、そのような施設が街の中に点在しているような環境が必要。八王子の例では、ビルの下部が病院、上部がマンションという施設がある。これは病院と企業の提携によって開発された。老健施設と高齢者マンションの複合化施設など、こうした試みは全国的に広がっている。

本シンポジウムにあたって、当法人の利用者やご家族の方を対象に「高齢者の望む街づくりアンケート」を行った。
その結果、「救急の病院がある」「リハビリテーションのできる病院・診療所がある」「かかりつけ医がいる」「夜間帯や早期の時間帯に受け付けている診療所がある」「長期療養ができる病院がある」「福祉用具の貸与や購入などの相談ができるところがある」「認知症に対応できる施設がある」「24時間・365日対応の施設がある」「訪問介護サービスが受けられる」「ショートステイができる施設がある」といった項目が高い支持を集めた。意外に感じられたのは、「有料老人ホーム」がそれほど高い支持は得られなかった。

その他では、「介護タクシー」「コンビニ、ドラッグストア、スーパー」「なんでも相談できるところがある」「地域で高齢者を支えるネットワーク」「子どもから高齢者まで暮らせるように整備されている」「街全体がバリアフリー」「高齢者用の配食サービス」「薬のデリバリーサービス」などの要望が多く寄せられた。

また自由記載項目では、「自宅に医師、看護師を呼ぶためのボタンが欲しい」「日帰り旅行に連れて行ってほしい」「ボランティアを育成できる施設」「話し相手を派遣するシステム」「長期療養のできる病院が多くできることを希望」「全国どこでも標準的な医療になってほしい」「階段のある所には必ずエレベーターやエスカレーターの設置を」といった声が寄せられた。

医療法人の視点から見ると、「24時間対応できるような在宅医療システム」「子どもから高齢者まで安心して暮らせる街づくり」「街全体がバリアフリー」「看護、リハビリ、ヘルパー、ケアマネージャーなどの学校の設置(勉強しながら実習も街でできる、働きながら資格がとれる)」「バイオマスや風力発電など環境にやさしい街づくり」などのコンセプトで、少しずつでも挑戦できればと考えている。


竹中工務店役員補佐 水田 恒樹

高齢者住宅の現状

竹中工務店 役員補佐
水田 恒樹

老後の住まいの選択肢は、1)高齢者福祉施設に入居する、2)今までの住まいに住み続ける、3)高齢者専用住宅に移り住む、という3つに分類できる。1)は最小限にとどめるという前提になる。2)は、段差をなくすなどバリアフリーに改築したとしても費用的に安く、心理的にも受け入れやすい。3)については、子どもが独立して部屋が空いた、リタイアして東京に住む理由がなくなったなどの理由により、今の家を処分するか次世代に譲るとなった場合、どこのどんな住まいを選ぶかという課題が生じるだろう。

高齢者住宅は、厚生労働省と国土交通省の2つの官庁が所管している。厚生労働省系の優良老人ホームは社会福祉施設に位置付けられるが、設置主体は多様で、比較的自由に開設できる。国土交通省系には複数の制度がある。誤解を恐れずに言うと、前者は提供される介護サービスに関心があり、入居者を守るため規制があり、後者は住宅としての性能に関心があり、介護サービスはないが、事業者にインセンティブを与える傾向がある。

入居者にとってもっとも切実な問題は、事業が永続すること。何千万円もの入居金で老後の生活を託すのだから、倒産や撤退は困る。次に、介護が確保されること。快適な生活、同世代との交流、家事からの解放など、入居の魅力は多々あるが、決め手となるのは介護サービス。開設当初は元気な入居者が多いので介護サービスの需要はそれほどないが、10何、20年と経つうちに施設には大変な負担になってくる。高齢者住宅の需要は大きいが、事業としてのリスクは大きいと言える。

介護施設、高齢者住宅という2つの選択肢の割合を国別のデータで見ると、介護施設に入所する高齢者はどこの国でも2〜4%程度に収まっている。一方、高齢者住宅系は5〜11%と国によってばらつきが見られる。日本は0.9%と、現状では際立って低い。英国や北欧では当初、介護の拡充を図っていたが、さまざまな反省から、高齢者住宅を重視するようになっている。日本はまだまだこれからと言える。

入居者の身体状況と経済力により、日本の高齢者住宅を概観する。厚労省系では、高い経済層に健常者から要介護者まで広くカバーする「有料老人ホーム」がある。それほど経済力がなく、若干の支援や介護を必要な方には「ケアハウス」がある。国交省系の高齢者住宅は、重介護の入居者は想定していない。公営住宅では「シルバーハウジング」、民間賃貸住宅では「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」や「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」、旧公団公社では「シニア住宅」がある。つまり、一般住宅の供給体系をそのまま高齢者住宅に投影したような制度・構成になっている。人的サービスは、安否の確認や緊急連絡など、最小限のものとなる。

高齢者住宅市場としては「医療福祉市場」「高齢者住宅市場」「一般住宅市場」の3つがある。市場に参入している企業を概観する。パイオニアは、医療法人や社会福祉法人で、1980年頃から本業の延長上で新しいニーズに取り組み始めた。それに続いたのが住宅企業群で、本業の不振、新規事業の模索、遊休地や余剰人員の活用といった理由による。しかし、事業の難しさ、デリケートな性質から、大規模な展開に至っているのは僅かである。2000年の介護保険法を転機に介護事業者の参入が相次ぎ、現在に至る。

最近の傾向としては、地元で絶大な信用がある地方公益企業の参入も目立つようになった。高齢者住宅は本来、都市的な現象だが、地方拠点都市にも拡がりを見せている。電力、ガス、鉄道といった地方の公益企業が、信頼を元に事業を担っている。

高齢者住宅の費用はサービスやグレードで3段階に分けられる。健常者向けは、中クラスで1,000〜3,000万円の一時金となる。1億円以上の超高級住宅もある。「快適な老後」を売り物にしているため、1,000万円以下の普及型は多くない。一方、要介護者向けは、健常者向けに比べ入居から死亡までの時間が短く、居室面積も小さいため、低めの価格設定となっている。それでも中クラスで500〜2,000万円ほど。健常者が自宅から高齢者住宅に住み替えるのは、付加価値の選択とも言えるため、貧弱な施設を選ぶ理由はない。しかし、要介護者は資力にあった施設に入るしかない。「待ったなしの必需品」であるため、要介護者向け住宅はすべてのクラスともそれなりに整備されている。

2種類の有料老人ホームの事例を紹介する。介護専用タイプは、当初から介護サービスを提供するため、機能、外観とも、特別養護老人ホームや老人保健施設によく似ている。これに対し、健常タイプは、入居時点では自立して生活できる人が対象となる。介護が必要になってからは、居室で介護する場合、建物内の施設で介護する場合、提携した外部の施設で介護する場合など、契約内容によって異なる。外観はマンションに近いが、低層階に食堂、大浴場、娯楽施設、医療・介護施設があることが多い。

内部については、新型の特養が充実してきた影響で、介護専用タイプも豪華になってきている。全面的にユニットケアを採用したある事例では、9人の入居者が個室をもちながらリビングダイニングを共有する生活様式となっている。健常タイプの住宅ユニットは1人ないしは2人で住めるバリアフリー設計で、それ以外は一般の集合住宅と変わりがない。ただし、低層階の共有部分の比率が40%近くあり、まるでホテルのような構成となっている。

ところで、有料老人ホームの構成には若干地域性が見られる。3大都市圏では名古屋圏は少ない。その他地域中核都市では、札幌は早くから立地しており、福岡も着実に増えている。広島や仙台はそれほど多くない。これら現象は必ずしも高齢化率や地価だけでは説明がつかない。一方でドライな老後観や自己決定など(多い地域)、他方で地縁・血縁など(少ない地域)といった文化的な違いが関わっているのではないか。

当社事例を紹介する。低価格の介護専用型有料老人ホームの中には、古い独身寮などを改修した施設も少なくない。高齢者住宅もふつうの住宅と同じように、立地、規模、グレード、事業者が多様で、居住者が選べるのが望ましい。住宅供給公社の高齢者住宅では、病院と住宅を組み合わせた事例がある。


元高知市保健所健康づくり課・保健師 吉永 智子

高知市での地域づくり活動

元高知市保健所 健康づくり課・保健師
吉永 智子

高知市の高齢化率は22.0%、介護保険率は18.7%で、全国平均よりはかなり高い。介護保険料も高く、人口10万人あたりの病院数、平均在院日数は全国1位。病院病床数は全国平均の3倍、療養病床数は全国1位。独居高齢者は全国平均の1.5倍。そんな状況のもと、高知市保健所は高知市広域支援センターを受託し、4年に渡って活動を続けてきた。「いきいきと百歳まで暮らしたくなる地域づくり」をスローガンに掲げ、1)市民参加、2)地域資源の有効活用、3)保健・福祉・医療の連携の3点を活動の柱としている。

特に市民参加で進める高齢者施策。市の補助金による委託事業として、市内52箇所に交流の場と、民家を改修した小規模な宅老所などをつくってきた。そして、専門職では限界があるため、市民が中心となって介護予防を推進しようと取り組んできたのが、「いきいき百歳体操」と「認知症支援活動」である。

「いきいき百歳体操」は、米国国立老化研究所の手引き書を参考に、高知市が独自に開発した体力向上プログラム。手首・足首に重垂バンドをつけて負荷をかけながら行う体操。90歳を過ぎても体力向上することが実証されている。

平成15年から4年間で通所事業所の研修会を開催。毎回200名程度のケアスタッフが参加。市内通所事業所の95%が参加することでプログラムの定着に至った。また、市民ボランティア養成講座により、百歳体操サポーターを養成してきた。現在、その数は417名。この方たちが中心となり、公民館、宅老所、養護老人ホーム、老人福祉施設など、さまざまな場所で百歳体操を行ってきた。次第に、開業医が待合室を提供、一人暮らしの方が民家を開放、商工会が商店街の空き地を提供するなど、多様な広がりを見せてきた。週に1度の商店街の例では同時に市場が開かれ、商店街の活性化にも貢献した。また、昼食会や喫茶店での二次会が開かれるなど交流の機会としても発展し、閉じこもりの抑止につながっている。

女性では、介護保険非認定者で75歳以上の20%、要支援1、2の35%が、この百歳体操に参加している。非認定者の男性の参加率が低いのは課題だが、要支援1,2の85歳以上の男性は35%もの方が参加し、元気を維持している。地域的には190箇所にまで拡大。当初は1小学校区に1箇所を目標としたが、現在は1小学校区5箇所程度にまで増えている。これは高齢者の足で歩いて15分以内のどこかしらで百歳体操が実施されていることを意味する。継続率についても、始めて1年以上経つ箇所が97%にも達している。高知市の高齢者の10人に1人が参加、通所事業所の7割がプログラムに採り入れるまで地域に定着した。これを支えてきたのは市民ボランティアのサポーターだが、あまりの拡大に行政のも追いつかず、専門職のインストラクターを擁立して支援している。現在、百歳体操は高知県や全国にも広がりつつある。

「認知症支援活動」では、国のモデル事業を活用しながら、認知症になっても住みよい地域づくりに取り組んでいる。市街地のはりまや橋周辺をモデル地域に指定し、まずは市民を中心に実行委員会を結成し、研修会を開催。認知症の予防と治し方について学んだ。学んだ中から「水、メシ、クソ、運動」(水を1日300ml以上とる、メシは1500kcal、便は3日以上ためない、毎日体を動かす)という4つのスローガンをつくり、市民がポスターをつくり、チラシを全戸に説明しながら配布。こうした活動の中から住民に講演依頼が寄せられるなどの動きがでてきた。

また、住民により、認知症の人やそれを支えている人はどこにいるのかマップにおとす活動を始めた。それにより、実際には近所の方、喫茶店の方、お風呂屋さん、理美容院さん、大家さんといった方々が毎日見守り、声かけをしているという実態が浮かび上がってきた。家族と同居している人ほどネットワークが少なく、こうした地域ネットワークは介護サービスとつながることで消えていきがちなことも分かってきた。

この活動を受けて、銀行、スーパー、警察、銭湯、喫茶などに認知症の理解を求めた。喫茶店には必ず水とお茶を飲ませてください、食事が食べられない方があったらケアマネに連絡してくださいといったお願いを始めた。マップからは高齢者が古い喫茶店によく集まることがわかったので、今後喫茶店のトイレの様式や食事メニューの内容などをケアマネらと調査する予定である。

このような住民活動がきっかけとなり、医療機関や介護サービス事業所から研修会を受けたいという声が上がってきた。医師会でのこのモデル事業の報告や、改善事例集を作成し地域に知らせるといった活動の準備がなされている。なお、病院関係者の認知症への理解度が少なくことが挙げられる。受付や検査の方などが認知症への対応にあまり関心がないことが見えてきたが、これは今後の大きな課題である。

モデル事業を通して、地域づくりで市民ができることの限界性が見えてきた。市民は啓発したり、見守ったり、誘い出したりはできるが、金銭管理、家に入ってケアをするといった行為には抵抗を感じている。とは言え、市民活動の波及効果は大きい。ベテランの百歳体操参加者がサポーターになったり、新たに「かみかみ百歳体操」(口腔機能の向上)が始まったり、問題行動のある認知症への苦情も減ってきた。

以上のような活動で学んだことは、市街地での住民主体の活動には戦略が必要だということ。国はさまざまな介護予防メニューを提供しているが、アリバイ的に「やればいい」という活動にとどまっており、市民活動につながっていない。高知市では介護予防を体力向上に特化して市民に定着させてきた。住民力を徹底的に信じ、行政は入り口で最低限の支援のみ行い後は手を引く。また、生活の継続に住民力は不可欠で、プロはプロの仕事をやっていく必要がある。慢性期の疾患の場合、現場では医療よりもケアのほうが本当は重要だとつくづく感じる。特に認知症の場合、周辺症状をとるのは住民やケア関係者だということを学んだ。今後は、施設志向からの脱却、施設ケアの質の向上など、さまざまな課題がある。地域医療に関わる医師は認知症にもっと理解を示していただきたいというのも課題のひとつである。介護療養病床1,000床をどうするかが緊急課題。

高知市が重点的に取り組んでいるのは、施設ケアの質の向上。目指すは循環型の施設への転換。特養に入れば一生出なくてもいいというのでは、これからの高齢化社会は成り立たない。老健にせよ、グループホームにしても同じで、入居すると重度化するという現状を変えていかなくてはならない。現在、ほとんどの施設が参加して研修を行っているが、歩く事例や、周辺症状の改善といった事例が増えてきている。このような「在宅復帰ができる施設」を市民に啓発していく必要がある。


東京大学大学院医学系研究科教授 橋本 英樹

「介護のための街づくり」か
「街づくりのための介護」か

東京大学大学院 医学系研究科 教授
橋本 英樹

介護の問題、少子高齢化に時代における医療や福祉の問題を捉えようとするとき、これというソリューションを示すのは難しいだろう。ソリューションを探すのを困難にしているのは何なのか。そもそも我々は正しく問題を認識しているのか。正しく問うているのか。そうしたことをアンチテーゼとして提供することが今回のシンポジウムの中心になっていたかと思う。

端的に表現すると、介護のための街づくりなのか、それとも街づくりのための介護なのか、ということになる。医療と介護を行うにあたって、それを必要とする人に対し、どうしたら必要な資源やサービスを効率的に提供できるのか──従来、我々はこのことを問い続けてきた。しかし、このシンポジウムは、介護を必要としている人たちはどういう人たちなのか、という問いかけから開始した。確かに、その方々は介護やリハビリを必要とされているのだが、社会人として何十年という時代を生きてきた経験、家族、地域に囲まれて日々「生活」をしていらっしゃる。「介護」という要素はその中に含まれているに過ぎない。

我々は世帯員・個人の健康という観点からスタートしがちである。健康状態がわるい、ではそれに対して何をすればいいのかと、医療サービスなり、介護サービスなりを考えるだろう。しかし、その状態を左右している背景にあるものは、その人が住んでいる社会・経済的環境であり、その人を囲む世帯であり、その世帯を囲む地域市民や地域の行政制度である。これらのことが、その人の状況を規定している。つまり、医療と介護を対象とするものに影響を与えるのは、医療と介護以外のものである。それをまず、事実として受け止めなければならない。その視点が「街づくり」という言葉に象徴的に表れているのではないか。

街づくりというのは、住む場所を用意するということだけではない。その人が住まう社会的な状況というものを考え、それを医療と介護の中にどう取り込むか。逆に言えば、医療と介護を社会の中に位置付けたうえでどのように考えるのか。我々はこれまで、介護のためのシステムづくり、街づくりを問うてきた。しかし、街づくりのための方便として。介護や医療を考えてみてはどうか。

健康や安全は誰もが共通のテーマにできることだ。先の高知市の例もそれで、あれがもし後期高齢者制度を進めるか否かという議論であれば住民の意見は二分しただろう。しかし、「みんなで健康になるために何ができるんだろう」という観点から活動を行ったことにより、住民すべてを巻き込むことができ、制度をも巻き込むことができた。決して全てを住民に任せるということではなく、プロはプロ、自治体は自治体、制度は制度で行うべき仕事がある。けれども、住民が主体になることによって、何かが変わってくるのではないか。

今後どのように動かしていくべきなのか。これまで制度というものはソリューションを提供してきた。今後は、住民がソリューションを求めやすくするために必要なインフラを、制度がどう用意するのかという形に切り替えて、医療や介護の政策を見ていくことができないか。以上が、今回のシンポジウムで取り上げた主要なテーマである。

開催趣意

2006年の医療制度改革以降、国は在宅ケアの進展を積極的に図ろうとしている。国際的にみて確かにわが国の病床数は多く、それを削減したいというのは財政改革を進めたい国としては当然であろう。在宅ケアの推進は、経済的には患者及び患者家族へのコストシフトをもたらすこととなる。少子高齢化の急速な進展及びわが国の財政状況を考えれば、このような政策はある程度受け入れざるを得ないだろう。しかしながら、コストシフトとそれに伴う心身の負担が患者及びその家族の許容レベルを超えて過大になりすぎれば、医療制度そのものの崩壊につながりかねない。したがって、療養の質が保証されるような仕組みづくりが行われるべきである。

長期入院高齢者に関するある調査結果によると、長期入院高齢者は「生活の安心」を求めて医療機関・介護施設にとどまっていた。この結果は在宅ケアを推進しようとするのであれば、安心して「住む」ことができる在宅環境を創るという視点が必要であることを示している。少子高齢化が進むこれからの日本における看護・介護の労働力供給の制限を考えると、地域に利用者が散在しているような状況を前提とした在宅医療システムの構築は難しい。したがって、ある程度利用者がまとまって居住しているような「新しい住(=在宅)」の仕組みを考える必要がある。しかもここで求められているのは「医療・介護」が保障された「住」である。

さらにこの問題をより広い視点から考えると、地域全体として高齢者の生活をいかに保障するかという地域づくりの問題となる。高齢者が地域で安心して過ごすことができる重要な条件の一つが医療・介護の保障であるならば、それを地域全体で保証していくという「街づくり」の視点が必要である。このような流れの中で、医療施設・介護施設にはそれぞれの持っている機能を積極的に地域に開放し、新たな地域づくりの核となる役割が求められている。

本シンポジウムでは「在宅ケア」と「街づくり」をキーコンセプトとして、これまでこのような事業に積極的にかかわってきた医療関係者、地域保健担当者、建設事業者、研究者の議論を通して、高度高齢社会における高齢者施策の在り方を総合的に考えようとするものである。