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シンポジウム

医研シンポジウム 第19回シンポジウム
医療へのアクセス―その実態と対応
 

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

さる10月9日(金)、台風一過、秋晴れの好天に恵まれた東京有楽町で、第19回シンポジウムが開催されました。会場を東京国際フォーラムに移して行われた本シンポジウムのテーマは「医療へのアクセス─その実態と対応」。
近藤克則座長による企画趣旨の説明の後、3名のシンポジストにより、医療供給面、医療保障面の各側面からの問題提起、そして比較制度論の立場から海外の事例も踏まえた提言がなされました。その後の総合討論では、参加者の質問への回答も交えながら、盛んな意見交換がなされ、盛況のうちに幕を閉じました。
事務局編集による座長基調講演および各シンポジストの講演内容の要約は、次の通りです。

開催概要

日 時
2009年10月9日(金)
午後1時30分〜5時30分
会 場
東京国際フォーラム「ホールB5」
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3丁目5番1号
主 催
財団法人 医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

13:30 開会挨拶 財団法人 医療科学研究所 理事長 森 亘
13:40 来賓挨拶 厚生労働省 医政局 経済課長 木下 賢志
13:50 座長基調講演 日本福祉大学 社会福祉学部 教授 近藤 克則
14:20 シンポジスト講演
(各20分)
毎日新聞社編集局 社会部 デスク 鯨岡 秀紀
国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部 第2室長 阿部 彩
立命館大学 産業社会学部 教授 松田 亮三
15:20 休 憩    
15:45 総合討論    
17:15 座長まとめ    
17:25 閉会挨拶 財団法人 医療科学研究所 研究所長 嶋口 充輝

(敬称略)

座長基調講演

日本福祉大学社会福祉学部教授 近藤克則

医療へのアクセス─その実態と対応
企画の背景とねらい

日本福祉大学 社会福祉学部 教授
近藤克則

日本の医療の長所は、長らくフリーアクセス、つまり健康保険証1枚あれば、病院でも診療所でも好きなところで医療を受けられることにあった。しかし、この数年間で次々とそのフリーアクセスが脅かされるような現実が明らかになってきている。例えば、医師偏在や医師不足の問題。これにより病院が閉鎖に追い込まれたり、妊婦が受け入れを拒否されて死に至るような事態も起きている。これは医療供給面におけるアクセスの問題だ。

病床数でみると90年頃をピークに、高齢者100人当たりの入院病床数は減ってきている。諸外国と比較しても、福祉施設を合わせると入院・入所定員数はむしろ少なく、特別養護老人ホームの入所待機者は38万人とも言われる。

日本の医療費は、世界と比較しても少ない予算でやりくりしている実態があり、G7の中では最も少ない。医師については、ピーク時には1学年8,000人の医学部入学定員が1980年代から抑制され、人口千人あたり医師数はOECD 30カ国の中で下から4番目。医師不足の問題が噴出し、医学部の定員増という構想があがってきた。
こうした供給面とは別に、医療保障面の問題がある。

例えば国民健康保険料の滞納者が増えていて、親が滞納しているために、その子どもが気管支喘息の治療を受けられないといったケースが明らかになってきた。
高齢者の自己負担額は次第に増加し、そのため治療費の未払い問題も起きた。これは病院にとっての問題であると同時に、病院に行きたくても窓口負担ができないために我慢しているという受診抑制層が背景にあるという問題を浮き彫りにした。我々のAGESプロジェクトの調査では、費用の問題で受診を控えた割合は、低所得者と高所得者の間で約3倍もの開きがあった。社会経済的に低い層ほどうつ状態が多く、さらに要介護率、死亡率も高いという結果も得られた。

健康格差をゼロにするのは難しいという議論があるなか、せめてアクセス機会の平等・公平・公正は守るべきという意見は多くの論者の間で一致している。そこで今回は、日本医療の長所でもあったアクセスをこれからどう守っていくのかという問題を採り上げ、考えていきたい。

シンポジスト講演

毎日新聞東京本社編集局社会部デスク 鯨岡秀紀

医療提供面におけるアクセス問題の実情

毎日新聞 東京本社 編集局 社会部 デスク
鯨岡 秀紀

毎日新聞は2007年1月以降、9部にわたって、医療の厳しい状況を追った「医療クライシス」を連載している。その連載に関わってきた経験から見えてきたことを報告し、議論の材料を提供したい。

医療提供面からのアクセスで最も関心を集めている問題のひとつに、周産期医療を巡る問題がある。連載第1部第1回目の記事の見出しは「分べん台で1時間待ち」。かかりつけ医が受け入れ先を探すために電話をかけ続けている間、妊婦は待ち続けるしかなかったという話だ。その後の調査で、全国の周産期母子医療センターで05年度にあった延べ9,932件の母体搬送要請のうち、1/3近い2,916件は受け入れができなかったという驚くべき数字が浮かび上がった。このうち700件は都道府県境を越えた要請だった。また、遠隔地への搬送には別の問題もある。前橋市から長野市に搬送されたケースでは、出産後、母親は長野市にアパートを借りて滞在し、大きな金銭的・精神的負担を負った。これもアクセス問題の一環と言えるだろう。

医師不足の問題もある。2007年当時、国は「医師は不足しておらず、都市と地方の間の偏在が問題」という姿勢をとっていたが、東京と大阪の公立病院を調査したところ、計54の病院のうち1病院が閉院、約半数の病院で計46診療科が診療の休止・縮小に追い込まれていた。都会でも、身近な公立病院で治療が受けられなくなった人が確実に出ていたのだ。

もちろん、閉院や診療縮小の影響は地方の方が深刻で、例えば岩手県では経営改革計画を巡って、県議会で知事が土下座するという事態も起きた。病院側も救急医療、へき地医療など不採算医療を担う中での黒字化は容易ではない。
「医療へのアクセスが悪化している」と感じている人が少なくないことは毎日新聞の世論調査からも明らか。「身近で医師不足を感じるか」の質問に39%の人が感じると答えている。<

一方、病院側からも「手術待ちの時間が延びた」という声が出ている。500床以上の病院の中でも、手術待ちの間に症状が進行し、手術ができなくなったという例があった。
医療提供面におけるアクセスを巡っては、医師不足などを原因としてさまざまな問題が起きており、患者にも大きな影響を与えているのが実情だ。


国立社会保障・人口問題研究所国際関係部第2室長 阿部 彩

医療保障面におけるアクセス問題

国立社会保障・人口問題研究所国際関係部第2室長
阿部 彩

医療保障の崩壊についてはいくつかの段階があると考えられるが、まず国民皆保険が崩壊している問題がある。国民健康保険世帯は所得の低い世帯において保険料率が高い。滞納率は18.4%、滞納世帯数は全世帯の8%にも及ぶ。

個人的には社会保険は限界にきていると考える。大きな借金がある、失業して収入がなくなったなど、今の減免制度ではとらえられない生活困難による滞納がある。また社会保険は、ある一定層にリスクが継続して偏在化しているときには必ずしも機能しない。社会保険以外の方法を模索すべき時期にきているのではないか。
次に、受診抑制の問題。医療費負担による自己抑制が起きており、例えば学校の保健室が医療機関の代わりとして使われている状況がある。週末に高熱が出たり、骨折したりしても我慢して、月曜日の朝に保健室に駆け込んで来るという話を、現場では日常茶飯事のように耳にする。

「国民生活基礎調査」では、家計支出が少ない世帯ほど医療費が低めであり、同じ支出層であっても家計が苦しいと考えられる母子世帯のほうが医療費支出が少ないという結果が見て取れ、医療費を抑制している実態が浮かび上がった。また、金銭的な理由で医療受診を控えたことがある非正規労働者は全体のおよそ1/3にのぼるという連合の調査結果もある。

最後にこれら問題による健康格差がある。先の国民生活基礎調査では、世帯所得階級が低いほど健康意識もよくないという結果が得られている。
なお、国立社会保障・人口問題研究所では2007年に全国17,000世帯を対象に社会保障実態調査を行った。その中で「家族が必要とする医療が受けられなかったことがあるか」という質問をしている。経済的、時間的(家族の介護や仕事のため病院に行かれないなど)、アクセス(地理的、身体障害など)などの理由も回答いただいており、その調査結果が10〜11月中には発表される予定なので、興味のある方は当研究所のホームページをご覧いただきたい。


立命館大学産業社会学部教授 松田亮三

医療のアクセス保障に向けて─比較制度論の立場から

立命館大学 産業社会学部 教授
松田 亮三

医療制度とアクセスはどう関わるか。まず、医療サービスそのものの供給が利用可能な範囲であること。次に、経済的障壁。医療サービス時点における負担を軽減すること。これらの他に、物理的・文化的・言語的障害、情報提供やヘルス・リテラシーの問題があるが、今日は先の2点について報告する。

先に経済の問題であるが、経済的障壁を減らすためには言うまでもなく公的医療制度が不可欠。国際的には大きく2つの類型がある。1つはイギリス、イタリア、北欧などのナショナル・ヘルス・サービス(NHS)で政府の予算から医療費を支出するもの。もう1つは社会保険に基づくもの(SHI)。日本は後者をベースとし、そこに租税を投入する折衷型である。<

医療財政の流れから公平を考えるときポイントになるのは、財源調達においては、支払い可能な保険料であること、支払い能力に応じた負担であること、利用者負担が支払い可能であること。資金プールにおいては、適切なリスク構造調整がなされていること、クリームスキミング(いいとこ取り)がないこと。医療機関への支払いでは、良質なサービスの提供などがある。

利用者負担について、例えばスウェーデンでは、1年間の上限を定めており、年間の家計を設計するにあたって医療費のめどが立つようになっている。各国様々だが、利用者が安心できる利用負担の仕組みになっているかが重要。

公的医療保険が複数ある時には各保険の間でリスクのバランスが崩れやすく、それぞれの保険の運営が困難となる可能性がある。オランダなどでは保険者が対等に競争できるようにリスク構造の調整を行う仕組みが導入され、徐々に工夫を積み重ねている。
次にアクセスと供給政策について。より詳細なレベルで結果目標を設定し、それを共有していくことが必要。それを地域単位、所得階層、就労状況などの影響を精緻に状況把握していくことがいよいよ必要になってきている。

政策実施手段としての規制と資源配分については、指標の公開による医療の可視化をすすめて議論していくことが重要。社会全体で議論できるような土台をつくり、各医療機関や法人がよりよい経営を行う誘因にする。同時に技術や人材に資金を配分していく。

アクセス保障を追及しつつ、より成果のあがるサービス供給体制を形成していくことが重要であり、それに向けて、責任と権限の所在の明確化、戦略的な取り組みの組織、地域単位で実現していく仕組みの形成が重要である。

開催趣意

日本医療の優れている点は、健康保険証一枚あればどこにでも受診できるフリーアクセスにあるとされてきました。ところが最近になり、医療へのアクセスにおける問題が指摘されるようになっています。例えば、医師の偏在や病院閉鎖による医療提供面のアクセスの問題もあれば、国民健康保険料の滞納者問題など医療保障面におけるアクセスの問題もあります。

それに対し厚生労働省も医師偏在対策を打ち出しました。また全国調査に基づき、子供への短期保険証の活用を求める通知を出すなどの対応も進めています。海外に目を向けると、WHOが「健康に影響する社会的要因(Social Determinants of Health)」に関する委員会を設置し、その報告書で健康格差のモニタリングや健康影響評価(Health Impact Assessment)が勧告されるなど、医療の公平性に着目する動きがあります。

本シンポジウムでは、これらの医療アクセス問題や医療をめぐる公平性を多面的に取り上げます。まず医療提供面と保障面から医療アクセス問題の実態を把握し、国内外の動きを踏まえて、その原因と今後の対応策を探ります。