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シンポジウム

医研シンポジウム 第20回シンポジウム
医療組織のマネジメント
 

シンポジウムの様子

シンポジウムの様子

10月22日(金)、心地よい秋晴れの東京で、記念すべき20回目となる医療科学研究所シンポジウムが行われました。公益財団法人としての初めてのシンポジウムは、会場も初となる丸ビルホールにて開催。そのテーマは「医療組織のマネジメント」。石井淳蔵座長による基調講演の後、4名のシンポジストにより現場に即した報告と提言がなされ、第2部の総合討論でも活発な議論が行われ、医療組織に対する新たなビジョンが提示されたものと確信しております。
事務局編集による座長基調講演および各シンポジストの講演内容の要約は、次の通りです。

開催概要

日 時
2010年10月22日(金)
午後1時30分〜5時30分
会 場
丸ビル ホール7階
東京都千代田区丸の内2-4-1
主 催
公益財団法人 医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

13:30 開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 森 亘
13:40 来賓挨拶 厚生労働省 医政局 経済課長 福本 浩樹
13:50 座長基調講演 流通科学大学 学長/神戸大学 名誉教授 石井 淳蔵
14:20 シンポジスト講演
(各20分)
川崎医科大学 総合外科学 教授/川崎医科大学附属川崎病院 副院長 猶本 良夫
社会医療法人 愛仁会 理事長 筒泉 正春
済生会 横浜市東部病院 院長補佐 正木 義博
関西大学 商学部 教授 川上 智子
15:40 休 憩    
16:05 総合討論    
17:15 座長まとめ    
17:25 閉会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 研究所長 嶋口 充輝

(敬称略)

座長基調講演

流通科学大学学長 神戸大学名誉教授 石井淳蔵

医療組織のマネジメント〜業務改善活動の意義

流通科学大学 学長
神戸大学 名誉教授
石井 淳蔵

今回のテーマが「医療組織のマネジメント」になった経緯には、医療科学研究所のイニシアティブがあった。医療科学研究所の嶋口充輝研究所長より「医療と経営」をテーマとした研究会発足の呼びかけがあったのが、7、8年前。その後、社会医療法人愛仁会や、シアトルのバージニアメイソン病院、トヨタ記念病院といった先進的医療組織との関係を築き、研究調査を行い、データを蓄積していくことで、最終的には『病院組織のマネジメント』という一冊の本にまとめられて刊行されるに至った。そのメンバーの多くに本日はご協力いただいた。

ところで医療と教育は非常によく似た問題を抱えている。ひとつはサービス事業としての特性。サービスは生産と消費が一致しており在庫が利かない。2番目は、現場にプロが配置されていること。医師、教員ともその道のプロでプライドが高い。現場のプロをうまくマネジメントしていくことこそが、医療、教育にとっての共通の課題だろう。3番目は、市場原理に似合わないということ。両者には「受け手の基本的人権は守る」という基本価値・倫理が強い。また、受け手のニーズがはっきりしておらず、ニーズに背いた治療や訓練が場合によっては必要となる。さらに、与え手と受け手の間に大きな情報格差がある。教え、教えられるという関係が重要だが、病院や大学ではなかなかうまく機能していないようだ。

「プロが現場につくサービス業」では、現場の力がことのほか強い。現場の力こそ組織全体の力を反映することになる。自らの思いを自らの手で実らせていく組織が、医療組織であり、教育組織。現場からやる気の渦が巻き起こってくることが重要で、そうしたボトムアップの渦をひとつの力に換えるのが「マネジメント」であり「ガバナンス」となる。

業務改善活動により、医療の質、経営の質、患者満足、従業員満足が変わっていくが、ほとんどの組織が難しい問題を抱えており、活動の疲弊、形骸化、空転という声が聞かれる。業務改善活動と計画制御の枠組が大事だが、トップと現場において事情が異なるため、業務改善活動にどれだけトップレベルでの統一性を与えることができるのかが大きな課題となるであろう。現場の気持ちを生かしながら、トップとして方向に徹していくという一語に尽きる。

シンポジスト講演

川崎医科大学総合外科学教授 川崎医科大学附属川崎病院副院長 猶本良夫

病院組織のマネジメントの視点
──巧みな「見える化」と目標は「人の成長」──

川崎医科大学 総合外科学 教授
川崎医科大学附属川崎病院 副院長
猶本 良夫

病院組織は、一般の企業と比較してはるかに多くの専門職によって構成されているという点が大きな特徴。そんななかでマネジメントの視点として重要なのは巧みな見える化、そして目標はスタッフの成長にある。

医療崩壊が叫ばれるなか医療の現場ではさまざまな問題が起き、医局の崩壊などの複合的な制度疲労が日本を覆っている。認められない、指導者がいない、ワクワクしない、職場に笑顔がないといった理由で若い人は辞めていく。一方、企業においては、組織能力が低いと人的投資が無駄になるため、経営者のリーダーシップによって組織を再構築する必要があるという研究結果がある。日本においては、リーダーの育成、組織化の技術、企業化の技術が特に米国に比べて大きく欠けていると考えられる。これらをいかに強くしていくかが、日本の再生、医療の再生の鍵となる。

欧米と異なり、日本では病院長は医師でなくてはならないと決められているが、医師はマネジメントに長けているのか。そもそもマネジメントとは、人々を通じて仕事をうまく成し遂げることであり、そのための方法を研究することだ。

専門職の特性として、組織への限定的なコミットメント、外部準拠集団へのコミットメント、独自価値の形成があり、それらの結果、協働の難しさをもたらす傾向にある。しかし、医療組織のマネジメントには、いろんな専門職を巻き込んで推進していくべきという概念が必要である。

製造業のマネジメントを医療に入力することで質は改善する。トヨタ生産システムの真髄「愚直に、地道に、徹底的に」に則せば、例えば徹底して作業を見直すためにベッド周りの動線を考えるなどの方法がある。バージニアメイソン病院などではPDCAサイクルがしっかりと機能している。継続的な業務改善活動から生まれるのは、リーダーの育成、組織文化、「そこまで私のことを思ってくれているのか」という顧客に対する熱意。質の高い「見える化」は、顧客満足、従業員の意識の変革、地域の信頼向上につながる。患者満足度の改善、医療の質の向上、コストの低減という3つを満たすためには、巧みな「見える化」が必要である。業務改善の目標は「人の成長」であって、数字は後からついてくるものと考えるべきである。


社会医療法人愛仁会理事長 筒泉正春

医療組織のマネジメント
業務改善の役割
社会医療法人愛仁会の経験
目下の課題・専門職でのQC

社会医療法人 愛仁会 理事長
筒泉 正春

社会医療法人愛仁会は、約50年前に医療や介護の本質に迫る理念を掲げて創立した。愛仁会が成長した背景には、方針管理(トップダウン)と業務改善(ボトムアップ)を単年度、5年度の事業計画として取り組んできたことがある。

組織を存続・発展すべきと考えている職員が改善活動を行える。改善活動を通じて職員個人の生涯学習・自己実現を図ることが重要。組織が存続に値するか否かは社会が決める。職員が存続に値しないと感じている組織は自壊する。集団の英知を発揮して、存在に値する組織であることを証明し続ける組織が進化発展する。上記が改善のための必要条件であり、学習体制の保障、組織学習、経営の安定、組織の存続という循環によって、創意工夫・イノベーションが発生する土壌を養成することが望ましい。医療の質、アクセス、コストの3要素をすべて成立させることは困難だが、イエス(可能)と答える決意をもって後輩を育成していく必要がある。

我が国の医療の国際競争力はかつてのように強くはなく、もっと海外から学ばなくてはならない。ハワイのクイーンズメディカルセンターは、愛仁会高槻病院とほぼ同じ病床数だが、医師数は約8倍、職員数は約4倍、入院患者数は約2.8倍、救急来院数は約6.5倍。この差を支えているのが、呼吸療法士、臨床栄養士、注射療法士といった我が国にはまだ存在しないコメディカルスタッフ。日本の若い医師が海外で研修するにあたって、研修内容が異なるという問題が生じている。患者をケアする職種がマネジメント、教育回診に参加する。患者のマネジメント、研修医およびその他のコメディカルスタッフの教育も同時に行うことが不可欠である。

愛仁会の医療組織としてのマネジメントと業務改善の役割は、組織の存続発展の基盤づくり、感染防止等の医療問題の解決手法、そして当面の課題であるが、自らの腕を上げ自己実現するということである。


済生会横浜市東部病院院長補佐 正木義博

──医療組織の経営改革とは──
今、必要なものはビジョン、戦略、そしてマネジメント

済生会 横浜市東部病院 院長補佐
正木 義博

一般企業に20年間在職し、また学生時代にラグビーでチームワークを培った経験を経て、済生会熊本病院に入職し、病院改革に取り組んできた。その後、横浜市東部病院に入職し再建を進めている。経営難に苦しむ病院では、医療従事者の方が明日もないかのような悲しい顔をしていた。しかし経営が立て直されると笑顔が生まれ、挨拶ができ、みんなで仲良く将来を語れるようになった。

行わなければならないことは、病院の組織改革。病院にはスローガンはあっても、ビジョンというものがほとんどない。5年後が語れるような明確なビジョンが必要であって、最終的には収支を改善するのだが、お金儲けをしようという考えはない。職員が楽しんで仕事ができること。地域全体の中にあること。ビジョン・戦略・行動計画は必ず可視化し、常に状況をチェックできること。最終的にはクオリティを高めること。そのために、単なる改善ではなく、しっかりとした改革が要求される。

これまでの使命や目的は保ちつつ新たなビジョンを創設することが必要。そのためにはトップダウンとボトムアップの両方の作業を進めていく。ビジョンができたら戦略、次いで戦術が必要となる。それに従って組織も変えていかなくてはならない。そしてPlan、Do、Checkを実行していく。中でも評価の部分が重要である。

医療経営モデルには、戦略マネジメントとしてBSC(バランスト・スコア・カード)が応用可能。BSCを活用し、現在の経営をビジョンへ到達させるためには、夢や希望があるほうがいい。<

患者が今欲しているものは情報。製薬メーカーがもたらす情報ではなく、医師やコメディカルの手でつくる情報が必要。患者を大切にする考え方が出てくると病院経営は成功に近づいている。そして、クリニカルパス。これにより組織の学習が進み、チームワークが生まれる。これからの職員は給料や待遇がいいからではなく、病院自体に惚れてくることが必要。人が集まる組織にしなくてはならない。

組織を構成する要素で大切なのは、風土・文化。本当のリーダーがいて、フォロワーがいる。ミドルリーダーが活躍しながら、カバーリングとフォローアップの体制が整っていることが望ましい。病院改革は「人」を変えること。皆で力を合わせてトライを獲得できるといい。


関西大学商学部教授 川上智子

医療組織のマネジメント
医療におけるトヨタ生産方式の導入とそのマネジメント

関西大学 商学部 教授
川上 智子

トヨタ生産方式(TPS)の概念をバージニアメイソン病院で導入している事例を報告する。TPSには2つの重要な概念がある。ひとつはJIT(Just in Time)。物を貯めておきそれで間に合わせるのではなく、在庫がないということ。2つめが自働化。自動化ではなく「動」に「人」がついている。例えば不良品が発生しそうな場合は機械を止めようという考え方。医療においては、JITは必要な器具を必要なだけ供給する、自働化は患者安全監視システムのように医療ミスと疑われる状況が発生した場合、即座に止められるようなしくみをつくる、というように応用されている。患者がピラミッドの頂上にある(以下、ビジョン、ミッション、価値、戦略と続く)患者第一主義として機能しており、この何を大事にするべきかが一目瞭然な図が従業員の間でコミュニケーションツールとして浸透している。

2002年より日本へ「現場カイゼン」ツアーを実施し、改善推進オフィスという組織を、さらに2004年には3部門を有する24名からなる組織をつくりワークショップなどを重ねてきた。そこではKaizenという日本語が飛び交っている。

標準化への抵抗など、医療専門職からの反発もあったが、医学・医療への親和性があり、実際にドクターの診療時間が35分から15分に短縮されるなどの成果により、徐々に理解が深まっていった。

人をどうやって育てるかという課題に対しては、教育研修体制を整備した。従業員のキャリアのステージに合わせて、最初は全員参加の入門コースに始まり、約30名からなる改善フェローシップまで段階を経た体系を構築している。

トップダウンによる改革推進で組織内への浸透を図る第一期、トップダウンと同時に現場からのボトムアップを進める第二期、そして現在は制度化された中で次の段階へ継続していくための教育研修システムを構築している第三期にある。

バージニアメイソン病院の事例の中から、患者を「顧客」ととらえる発想の転換、特に初期においてはトップマネジメントのリーダーシップが重要であったこと、専門職の巻き込み、組織による制度化、教育・研修体系の整備による人材育成といった点が学べたと考える。

開催趣意

先進各国で医療の質や制度において重大な問題を抱え、その解決は喫緊の国民的課題となっている。わが国においても、事情は変わらず、巷間「医療崩壊」の言葉が駆け巡る状況にまで陥っている。その医療崩壊を生み出す要因の一つに、医療組織における過少のマネジメント問題があると考えられている。
本医療科学研究所で開催された医療経営研究会を一つのきっかけとして、医療組織のマネジメントへの経営学的なアプローチの一つの流れが生まれた。その流れとは、医療組織における業務改善活動の展開に注目するものである。今回のシンポジウムでは、そのテーマを巡って、それらの活動を実践する病院関係者と経営研究者による発表と討議がなされる。

医療組織において、業務改善活動をうまく運用することができれば、@患者の満足を高め、A医療の質を高め、B医療経営の質を高め、そしてC医療従事者の働く意欲を高めることが期待される。そうした先進的な取組を行っている国内外の病院の創意工夫を検討しつつ、業務改善活動への取組の意義、さらに取組を支える条件や課題などを、皆様と共に探っていきたい。