1989年のゴールドプラン以来、わが国では介護提供体制の整備が進められてきました。しかし2025年に予測される、75歳以上人口が全人口の2割に達する超高齢化社会においては、医療界・介護界のみならず、自治体、そして地域住民も危機感をもち、もう一段進化した体制づくりを行わなくてはなりません。
医研シンポジウム2014は、その構想「地域包括ケア」のシステム設計の根幹を担ってきた地域包括ケア研究会に加わる5名により、概念の展開から各地で進展しつつある体制構築の試みが示され意義ある討論会となりました。
事務局編集による各講演抄録は次の通りです。
開会挨拶 | 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 | 江利川 毅 |
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来賓挨拶 | 厚生労働省 厚生労働審議官 | 原 勝則 |
座長基調報告 | 慶應義塾大学 名誉教授 | 田中 滋 |
パネリスト講演 | 厚生労働省 老健局 老人保健課長 | 迫井 正深 |
医療法人財団 千葉健愛会 あおぞら診療所 院長 | 川越 正平 | |
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 人材育成部門 研究員 | 堀田 聰子 | |
兵庫県立大学大学院 経営研究科 教授 | 筒井 孝子 | |
パネルディスカッション | ||
座長まとめ | ||
閉会挨拶 | 公益財団法人 医療科学研究所 専務理事 | 戸田 健二 |
(敬称略)
慶應義塾大学名誉教授
田中 滋
2008年、老健事業としての初年度に開催された地域包括ケア研究会において、高齢者ケアは介護だけではないことを示した。その後概念は進化し、現在は「植木鉢」図が広く知られるようになった(発表資料1-2参照)。「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」の3つの“草葉”がプロフェッショナルサービスにあたる。この専門職を支える芳醇な“土”が「生活支援・福祉サービス」で描かれ、土が流れ出さないための“植木鉢”が「すまいとすまい方」に相当する。
昨年の報告書で加えられたのが“皿”の部分で、これは「本人・家族の選択と心構え」を表す。高齢期にどのように生きていくべきかプランしておくことを意味する。団塊の世代が選択と心構えを怠ると、下の世代が支えきれないだろう。なお基礎自治体の役割としては、地域にある資源をいかにマネジメントしていくかがポイントとなる。目標はケア付きコミュニティの構築に他ならない。 この「植木鉢」図からさらに、@医療介護総合確保(草葉)、A生活支援・コミュニティ活性化(土・植木鉢・環境)、B認知症者とその家族の支援(図にはまだ盛り込まれていない)という、統合や連携のための3つのサブシステムを導くことができる。
日本は、20世紀最後の四半世紀に発生した新たな依存人口増に対し、ゴールドプランや介護保険制度により対応してきた努力を称賛されている。次は、2025年以降、人口の2割が後期高齢者となり、少子化により自治体の消滅が危惧されるなどの問題にいかに対処するかが、世界に注目されている。
介護保険法には、高齢者のお世話をするとは書かれていない。高齢者の尊厳をもった自立を、連帯し、できる限り居宅において支えるとなっている(第一条、第二条4)。さらに、要介護にならないようにする、なったとしたらリハビリを第一に考え、自己能力の維持向上に努めよ、とある(第四条)。だからこそ社会は連帯して支援できるのであり、かわいそうな人のお世話をする制度ではないことを改めて理解すべきである。
2014年の医療介護総合確保推進法には、地域包括ケアシステムという言葉が第一条に記された。第二条に定義が明示されているが、これはまさに、先の「植木鉢」図が法律化されたと捉えてよい。
地域包括ケアシステムの目的は、前述のようにケア付きコミュニティを構築し、要支援者の自立復帰支援と介護予防を図ることである。自治体は既存資源のネットワーキングを行う。現在の縦割の部局に横串を通して隙間をなくす工夫が求められる。そのためには地域包括ケア推進室等の横断的機能が必要と考える。なお鍵となる概念は統合、すなわち関係者がビジョンを共有することである点を最後に指摘したい。
厚生労働省 老健局 老人保健課長
迫井 正深
高齢者は急速に増加している。特に2030年以降は、社会の担い手となる人口層の減少が顕在化していくため、効果的・効率的なシステムの構築が喫緊の課題といえる。そのためには、@軽度者に対応した生活支援と介護予防の強化、A中重度者に対応した介護・医療サービスの充実、という2つの層に対する施策が必要である。
75歳以上の人口割合が増加するにあたっては、要支援から要介護5まで多様な状態があるが、まずは重度者と軽度者のニーズの違いを分けて考えるべき。地域包括ケアシステムの姿としては、地域で支えていく部分(軽度者)と、プロフェッショナルサービスで支える部分(中重度者)の2つの層に分けられ、それらをバランスよく構築していくことが重要。「植木鉢」図の“土”にあたる生活支援が地域の様々な主体により提供されるようになれば、“草葉”にあたる医療・介護の専門職はプロフェッショナルサービスに注力することができる。ここが今後の人口構成の変化を考えたときの大きなポイントとなる。
先述@について。軽度の方はADL(身の回りの動作)は保たれているが、買い物や外出などのIADL(生活行為)は低下しているという特長がある。つまり、その部分を支えていけば居宅の日常生活を維持できる。単身および夫婦世帯の高齢者が増えるなか、生活支援のニーズに対応するには、地域住民の互助やNPOなどによる支援サービスを活用していくことが重要。高齢者の力、あるいは地域力をそうしたサービスに向けていく余地はあると考える。比較的軽度な高齢者が社会参画として互いに助け合うことができれば相乗効果が期待できる。自治体のバックアップでこのような体制を構築し、さまざまな単位で展開していきたい。現行の訪問介護、通所介護については、このように支援の裾野を広げることでサービスの充実を図れば、結果として費用の効率化を図ることができる。自助・互助については、それぞれに工夫する余地があるだろう。
Aについて。中重度の方に対応するには、プロフェッショナルサービスをいかに充実させていくか。多職種連携、機能の統合などの推進が重要。医療と介護の連携を考えたとき、地域内の日常生活の中での介護と在宅医療の連携、広域医療を含めた急性期医療との連携という2つの局面があり、それぞれへの事業展開を進める必要がある。サービスの提供でいかに連携していくかも重要。訪問介護・訪問入浴介護・訪問看護・訪問リハビリ、あるいは通所介護・通所リハビリといった、現行の縦割的な居宅サービス体系の連携を強化し、統合する必要性を感じている。
多職種連携では、例えば介護職がリハビリ専門職と協同してアセスメントを行うことで本人の能力を引き出す介護が提供できる。訪問系と通所系の連携では、実際の生活場面を訪問で把握できるなどの効果が期待される。しかし、課題も多く、さらには連携が求められていること自体が浸透していない可能性もある。居宅サービスについては、訪問系と通所系を総合的に捉えた評価体系の導入を、かつ異なる機能を目指すのであれば客観的な機能評価体系も合わせて導入することでより効果的で効率的なシステムになると考える。
医療法人財団 千葉健愛会 あおぞら診療所 院長
川越 正平
Lynnの「死に至る3つの軌道」には、「くぼみ」(時間の経過の途中で身体機能が一時的に落ちる場合:合併症や転倒、原疾患の再発など)と「負の傾き」(徐々に身体機能が低下していくこと)が示されている。くぼみが浅く、負の傾きがゆるやかであるほど、生活の質の安定が保たれ、医療コストが低減できる可能性がある。くぼみの多くは予測が可能なので、未然に防ぐことが多職種協働のポイントとなる。負の傾きについては、「感じる・考える」、「移動する」、「食べる」の3つの要素が重要で、このうちのひとつが衰えると他も衰えることが多い。専門職によるアドバイスや介入が必要となるゆえんである。
誤嚥性肺炎には抗生剤治療を行うが、本来は、そもそもなぜ誤嚥したのか、食形態はどうだったか、どんな食事介助をしていたのか、といった様々な検討や介入を同時進行で行わなければ本当の意味での解決にはつながらないと自戒したい。認知症は5〜10年の経過の中で時期により必要となる臨床介入が異なってくる。これら老年期に生じる疾病は生活機能障害と捉えるべきで、医療職には「生活を支える視点」が、介護職には「医療的マインド」が求められる。医療は、介護が把握している生活情報を医療介入へ反映させ、逆に介護は、治療方針や未来予測を提示することで今後の方針を指し示すことができる。これこそが医療と介護の統合といえる。
規範的統合の実際例を紹介する。@ケアマネジャーの医師への心理的ハードルが高いことから、松戸市医師会でケアマネタイムを行った。医師に1週間のタイムスケジュールを記入してもらい、連絡方法の好みや代理人の名前などを記載することで医師に面会しやすいよう工夫している。A末期がん申請の場合、調査時以降も身体状態は刻々と悪化するため、要介護認定を迅速に審査する。認定審査委員の申し合わせ事項として、末期がん患者の認定を概ね要介護3を基準として判定するという決定がなされた。B昨年より、高齢者の救急医療と在宅医療について取り組んでいる。例えば意識障害のある独居の高齢者が搬送されたとき、病歴や薬歴、リビングウィルが分からないことが多々ある。これに対し、消防局のヒアリングに始まり、課題の抽出、多職種による会議、先進事例の情報収集などを行い、本年6月には救急シンポジウムを開催し、解決策について議論した。
在宅医療と介護の統合が水平統合とすれば、病院と地域医療の統合が垂直統合といえる。高齢者の救急搬送においては、これまで病院との連携を重視していた救急隊が在宅医療および介護との連携も強化することで共通認識や地域の規範を形作ることにつながるだろう。
医療の現場では、医師、歯科医師、薬剤師以外の管理栄養士や歯科衛生士などの組織立てはできていない。介護の現場でもケアマネ以外の職種は同様である。まずは医療専門職、介護専門職がそれぞれひとつのチームになること、そしてそれらが融合することが医療介護連携であり、さらに病院もまとめたネットワークを教育研修の機会や様々な会議体の設置によって構築することを目指したい。
規範的統合はローカルルールという言い方をしてもいいかもしれない。自分たちで話し合い、地域で決めたことをみんなで守っていく。それを規範的統合といえば理解しやすいだろう。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構
人材育成部門 研究員
堀田 聰子
高齢化の進展と医療の進歩に伴い疾患構造が変わり、複数の病気や障害とつきあいながら地域で暮らす方々が増えるなか、住み慣れた地域での尊厳ある暮らしの継続(Aging in Place)を実現する持続可能なシステムを各国が模索している。特に90年代以降地域を地域包括ケア=基盤とするケア×統合ケアに関するムーブメントが多くみられる。
健康の概念は「病気と認められないこと」から、「心身の状態に応じて生活の質が最大限に確保された状態」を中心とするものに、支援観は「治す」から「支える」へと変化しており、社会全体の生活モデル化も徐々に進みつつある。
各国の例をみても、統合は提供者側の論理に任せておいてもある程度進むことが知られているが、重要なのは、地域を基盤とする統合を図ること。現在と将来の人口や健康状態、資源の状況、住民の考え方等に基づいて、各地域が地域における最適を自ら選んでいく、住民自身がどのように生き、死んでいきたいのか、それはどのようなまちで実現できるのかを考えていくことが出発点となる。
地域包括ケアシステムの構築に向けたチャレンジを3つの観点から述べる。
@5つの構成要素、長期にわたりケア・サポートを必要とする方々の暮らしを支える機能を圏域単位でどのように確保・再編・統合するか。住民を多様な「当事者」として巻き込みながら地域の現状と将来像を認識・共有して目指すべき方向性を明確にして具体的な施策目標と評価指標を設定することが求められる。統合の要としては、地域社会を強化しつつ連携を促す人材がカギとなる。養生の支援、予防から人生の最終章までの意思決定支援、さまざまなケア・サポートの門を開き多職種・多主体のハブとなる機能を担いうる人材である。「地域を支える」という発想から、マネジメントや制度のイノベーションも欠かせない。
A年齢や疾患・障害の別や有無にかかわらずすべての人にとっての共生のまちづくりには、「地域のQOL」という発想、エリアとテーマのネットワークを組み合わせるコミュニティデザイン、自立と尊厳・地域へのコミットメントを引き出す教育、産業界との連動も重要だ。
B労働政策とも横串をさしていくことが必要。社会の変化に柔軟に対応して継続的に関係職種の職業資格を発展させるプラットフォーム、働きながら職業能力を高められる職業教育訓練、また就労とケアの両立等の観点からも論点が多い。
いくつか事例を紹介する。一関市国民保険藤沢病院を中心とした住民との対話でつくる地域医療、地域医療再生マイスター養成でも知られる南砺市モデルは、いずれも危機的状況に端を発してすべての人が当事者として目覚めていった例としても興味深い。岐阜県居宅介護支援事業協議会は、多職種協働アセスメントの共通言語を開発して県全域で浸透をはかっている。「ごちゃまぜ研修」は多職種協働の前提としての自らの専門性振り返りと他職種の専門性理解も促している。オランダでは、地域看護師などによる地域に根ざすトータルケアがよりよいケアとよりよい仕事をより安く実現できた例があり、日本でも新宿区の「暮らしの保健室」など地域ナースの活躍は多くみられ、地域を耕す地域看護機能はカギのひとつだ。各地に広がる「かあさんの家」や「なじみ庵」も人と人を結び、個人と地域の物語を共有する場にもなっている。英国のDementia Action Allianceのように当事者の生活課題をもとに目指すべきまちの姿を共有して多主体のコミットメントを引き出した事例も注目できる。
QOLの維持向上を目標とすれば、その資源は暮らしの場全体に広がっている。改めて自分の心身の専門家(素人専門家)、「自助」の主体としての本人とどう協働するか、そして家族、地域とどう協働するかが問われており、これは、専門職―患者という関係を超え、より人間的な関係に基づく人間中心、地域住民を基盤とするケアというプライマリ・ケアの理念の追求にも通じるだろう。
兵庫県立大学大学院 経営研究科 教授
筒井 孝子
地域包括ケアには、Community-based careとintegrated careの2つのコンセプトがあるが、特に後者の理念は昨今、国際的な潮流となったといえる。これを臨床的な文脈から説明すれば、分断化している専門化のプロセスを統合するにあたって、まず患者にとって何が最適かということに立ち戻ろうとしたことに始まったといえるし、組織的な文脈からは、人類は多人数の患者を効率的に治療するために多対多のサービス提供システム(病院)をつくったが、これが残念ながら、患者不在のシステムとなっていることが近年、指摘されていることへの反省から生まれたともいえる。また財政的・政治的な文脈からは、医療、介護共に、莫大な費用がかかるにも関わらず、その成果が分かりにくいという状況から、国家財政への負担の軽減が求められるという文脈において取り組まれるようになったといえる。
このようにintegrated careを推進するという動きは先進諸国ではじまり、推進されつつあるわけだが、日本が医療費を抑制しながら、複雑な疾病や医療ニーズを抱えた患者に対して、高いQOLを維持しながらの医療サービスと生活支援ができるかについては、まさに世界中が注目している。
このintegrated careの理念の下ですすめられる多様なintegrationには、@linkage、Aco-ordination、Bfull-integrationの3つの強度が存在することが特徴である。ここで注意すべきは、@からAを介して、Bに直線的に移行することは少ないということである。
したがって、既にある保健・医療・介護の専門家間のコミュニケーションをバックグラウンドとし、臨床的ネットワークを形成するということができれば、@を経ることなくAにも、Bにも移行できる。
また、integrationに至るプロセスには、その方法として、いくつかの種類がある。ここでは、その一部を紹介する。「システム的統合」は、今、日本で、かなりラディカルに進められている。一方、各国の取り組みにおいて、すでに共通に認識されていることとして、もっとも重要なプロセスと考えられる「規範的統合」は、日本における地域包括ケアシステムの構築のスキームからいうと、自治体が住民とビジョンを共有化することであるが、これは簡単ではないだろう。
このほかに、その種類として、現在、理論的に定義がされているものとしては、「組織的統合」や「運営的統合」といったものもある。このうち「組織的統合」とは、各地に創られはじめている“地域包括ケア推進課”という組織を横断する組織体が典型である。「運営的統合」は、こういった新たな課において事務管理業務、予算、財政システムを提携していくことを意味するが、これが実行できるとシステム推進は、より障壁が少なく推進がしやすくなる。
integrated careの目標は、ケアへのアクセスの向上、ケアの質の向上、ケアを提供する仕組みの持続可能性の向上であると提唱されているが、これを達成するためには、McKinsey等が示しているMECEを基盤とすべきで、すなわち、相互に、ダブリなく、全体として、モレなく、システム内のサービス供給を実現するかに留意しながら進めていくことが求められる。
現行の日本の地域包括ケアシステムは、先に示した段階の@linkage、Aco-ordinationの例がほとんどである。Bの成功事例としては、サンフランシスコのオンロックがある。独居者も多く、40%が貧困者という構成員を対象とした地域包括ケアシステムで良好な結果が得られているという例は日本の特定の地域においては参考にできるだろう。
この他にもカナダのPRISMA(A)、SIPA(B)などがあるが、前者のモデル(既存施設の活用、単一受付窓口を既存の医療制度に追加)は日本でも応用できるかもしれない。
ただし、海外で実施されてきたintegrationモデルを日本で応用する場合に留意すべきことは、参考にはできるが、そのまま、使うことは難しいということである。日本には、日本の地域包括ケアシステムがあるという当たり前のことを認識しておくことが大事。
さて、地域包括ケアシステムの構築に際して、このシステム内に有する「ヒトモノ、カネ」といった資源は有限である。この貴重な、限りある資源を有効に利用するためには、個々の自治体は、システム構築の際に必ず住民の総意の下でサービス受給に関するルールを明確にし、システム内の構成員における受給資格と、これに応じたサービス種類別の量を再定義する必要がある。
このためには、これに関わる専門職を含めた学際的なチームが効率的に機能するためのケア提供プロセスが予め創られていなければならない。そして、これらのチームの構成員がデータベースを共有化すること(ICT)が必須となる。
現在、国が進めている認知症初期集中支援チームは、専門職を含めた学際的なチームであり、このチームが効率的に機能するために、認知症の方々に対するケアに関する情報を集約したデータベースを共有が必要とされる。この事業では、現在、これらのチーム員が利用することができる共有のデータベースのプロトタイプを開発中である。
認知症高齢者への対応は複雑であるため、初期集中支援チーム員内の情報を共有し、初回家庭訪問から引き継ぎのモニタリングまでのプロセス管理ができることが求められるわけだが、こういったことができるようになるということこそが地域包括ケアシステムの基盤とその推進につながる。つまり、この認知症初期集中支援チームによる地域での活動が広がるということと地域包括ケアシステムの構築とその推進は同義であると考えられる。だからこそ、自治体すべてで、より具体的には認知症の初期集中支援チームを動かすスキームを検討してほしい。
自治体は地域包括ケアシステムを構築し、推進する責務があるとされている。だが、すべての自治体にこの責務を果たす実力はない。ただし自治体が、どのくらいの実力があるかを評価するための尺度は、ここ5年くらいかけて、開発してきた。
これを活用して、まずは、自治体は自らが、現時点でどのくらいの実力があるかを評価して、自分の立ち位置を知ることであり、そして、何をするにしても、地域住民との規範的統合を行い、どういうビジョンで、このシステムを創るかを表明することが第一歩となる。
最後に、少し将来的な話とはなるが、今後の課題として、病院間の競争を促進するような取組みや患者の選択肢を広げることで水平的・垂直的統合を達成することが困難になる可能性があることや統合的業務に対しては、プラスだけでなく、競争機能に対してマイナスの面をもたらす可能性もあることを認識しておくことが重要であろう。
パネルディスカッションでは、田中座長により認知症ケアについてのテーマが示され各パネリストがそれぞれの立場からの見解を述べたほか、それぞれの講演の補足説明に時間があてられた。会場参加者からは、個人情報保護法の観点、地域の民生委員の役割、ICTを含めた記録のあり方について意見が求められた。
田中座長からはインターネットでの「地域包括ケア研究会報告書」閲覧が呼びかけられたうえで、地域包括ケアシステムの構築には、住民およびコンビニ、スーパーなどの事業者の参画が必須で、ただし自治体の首長による強いメッセージ発信が必要であること。地域包括ケア計画は自治体がもつ諸計画に縦に加えるのではなく、諸計画と横串で関係すべきで、地域包括ケア推進室のような部局が必要になること。そのうえで各主体が役割を明示し、ロードマップを提示すること。中核機能の整備が必要であるという見解が示された。さらに総括として、ビジョンを共有し、目的が地域の活性化であることを明確に示すこと。自立支援だけでなく、互助支援・共生支援が必要であること。ローカルルールに記載して共有すべきであること。そして地域包括ケアシステムには、首長・経営者・団塊世代の住民の覚悟が必要であることが主張され、閉幕となった。