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シンポジウム

産官学シンポジウム イノベーション推進への期待と課題
−日本の医療イノベーションを推進し、国際競争力を高めるために何が必要か?−
 

開催概要

シンポジウムの様子

日 時
平成25年5月18日(土)13:30〜17:00
会 場
東京国際フォーラム ホールB5
東京都千代田区丸の内3-5-1
主 催
公益財団法人 医療科学研究所
後 援
内閣府 厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 江利川 毅
座長趣旨説明 日本大学 薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
白神 誠
パネリスト発表(各10分) 一橋大学 イノベーション研究センター 教授
プレトリア大学ビジネススクールGIBS
日本研究センター 所長
米倉 誠一郎
東京大学大学院 薬学系研究科
ファーマコビジネス・イノベーション教室 特任教授
木村 廣道
東京大学公共政策大学院 特任教授
(前内閣官房 医療イノベーション推進室 次長)
大西 昭郎
財務省 主計局 主計官(厚生労働係担当) 新川 浩嗣
厚生労働省 技術総括審議官 三浦 公嗣
武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー 平手 晴彦
日本製薬工業協会 会長
塩野義製薬株式会社 代表取締役社長
手代木 功
パネルディスカッション 日本大学薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
座長
白神 誠
慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
Co-chair
中村 洋
座長まとめ    
閉会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 専務理事 戸田 健二

(敬称略)

座長趣旨説明

日本大学薬学部教授 公益財団法人医療科学研究所理事 白神誠

日本大学薬学部教授
公益財団法人医療科学研究所理事
白神 誠

本日のシンポジウムでは、はじめに産官学の7人のパネラーに講演を行っていただくが、その依頼の際、お話しいただく内容を提示するのではなく、とにかく"医療イノベーション"をキーワードに自由に発言していただくようお願いをした。従って、このシンポジウムを通して、何か具体的なソリューションを提供することは考えていない。かつて、東京医科歯科大学の佐久間昭先生が、統計の世界のことであるが、"garbage in, garbage out"、つまり、「ガラクタを入れればガラクタしか出ない」と言われたことがあるが、公益財団法人医療科学研究所でも、絶えず各界に高品質な材料を提供することを心がけている。本シンポジウムでも同様であり、医療イノベーションに関する高品質な材料を提供させていただき、優秀な"調理人"である皆様に、存分に腕を振るっていただくことで、その推進を促すことができれば幸いである。

講演1

一橋大学 イノベーション研究センター 教授 米倉 誠一郎

創発的破壊:イノベーションと国際競争力

一橋大学イノベーション研究センター教授
プレトリア大学ビジネススクールGIBS
日本研究センター所長
米倉 誠一郎

GEが世界25市場、3100人のイノベーション戦略担当者(シニアエグゼクティブ)にインタビューをした『GE Global Innovation Barometer』に掲載されたデータは、非常にショッキングな内容だった。例えば、「あなたの会社経営にイノベーションは」という設問に対して、「大変重要」「重要」「あまり重要でない」「全く重要でない」という4段階で回答しているが、日本の担当者の20%は「あまり重要でない」「全く重要でない」とnegativeな回答をしているのである。その他の設問に関しても、日本はほとんど最下位であり、担当者の認識の低さ、熱意のなさを如実に表す結果となった。

一方で、これまでの優れた実績やビジネス環境から、日本は世界からイノベーションを牽引する国だと認識されている。それにも関わらず担当者の自己評価が低いのは、後に述べるように他国担当者とイノベーションに対する認識が異なるからだろう。もう一つ考えられるのは自信喪失だ。我が国は、科学分野ではアジアで唯一、多くのノーベル賞受賞者を輩出し続けている。産業面を見れば、i-phone部品の7割以上は日本製、環境車としてのプリウスの優秀性、アジアに広がるコンビニ、新幹線をはじめとする公共インフラに関するイノベーションなども素晴らしい。その実態・実力を自信喪失によって見失っているのだ。

認識ギャップは、日本担当者がイノベーションをきわめて高度な技術革新だけであると誤解している部分もある。フェデックスの創業者、フレデリック・スミス氏が、エール大学在学中に、画期的な配送システム「ハブ&スポークシステム」を発案したのは有名な話だが、このシステムは技術革新ではない。しかし、これはイノベーションだ。つまり、技術に限らず社会経済に新しい価値をもたらすものがイノベーションなのである。

現在、韓国がすでにASEAN、インド、EU、米国と自由貿易協定を発効している一方で、日本は自由貿易協定を発効すれば農業が壊滅するなど、皆さまざまな不安を口にして足踏みをしているが、否である。農業であれ、医療であれ、本当に良いものなら世界に打って出られる。守ったら負ける。歯科医ができる混合診療がなぜ一般診療でできないのか。日本の国民皆保険をさらに進化させれば、世界のモデルとなり得るのだ。今、こうした問題を本気で考えなければ日本は世界の中で孤児になってしまうだろう。

インド製の2000ドルの乗用車、タタ・ナノに乗ったことがあるだろうか。僕はムンバイ経由でプネまで出向いて試乗し、これが2000ドルで作れるなんてスゴイと素直に思った。しかし、日本の自動車関係者は「あれはオモチャだ」と揶揄する。その反応を見た時に連想したのは1960年代にトヨタカローラを見たアメリカ人だ。……だからGMは潰れたのだろう。今、日本人のビジネスマンの好奇心が著しく低下している。自動車王国を誇るのなら、まっさきにタタ・ナノに乗りに行くべきなのだ。これを医療関係者を含め、すべてのビジネスマンに向けた問題提起とさせていただきたい。

講演2

東京大学大学院 薬学系研究科 ファーマコビジネス・イノベーション教室 特任教授 木村廣道

日本経済成長ドライバーとしての健康・医療産業
〜異分野融合・オープンイノベーションがもたらす
新医療ソリューション〜

東京大学大学院薬学系研究科
ファーマコビジネス・イノベーション教室特任教授
木村 廣道

我が国のアカデミア(大学、研究機関等)のレベルは高く、限られた研究費を効率的に活用し非常に高い成果を上げている。また、産業面における「ものつくり」に代表される高度な技術についても世界最高峰にある。さらに医療現場を見ても、医療提供側のホスピタリティは高く、医療を受ける消費者の成熟度も高い。このように、日本にはすでに健康・医療イノベーションを生む礎が備わっており、当然、世界から熱視線が注がれるはずだが、現実にはこれらの研究成果が社会に効率よく還元されておらず社会システムとしてのサステナビリティがないと評価され、国内外からの投資を呼び寄せていない。先に述べたように、我が国の製品の創出力・供給力はハイレベルであり、市場のポテンシャルも高いが、その両者の間には大きな需給ギャップが存在し、国際競争力を生み出せていないためである。

このギャップを埋めるためには、科学技術イノベーションと社会基盤イノベーションを同時に連携させ推進する必要がある。科学技術に関しては、日本が誇る基礎科学や要素技術を総動員して、市場のニーズを見据えたSolution Mixへと構築しなければならない。そのためには、特にバイオや再生などの新たな領域において、TR(Translation Research)やRS(Regulatory Science)、HTA(Health Technology Assessment)を推進し、技術と社会の接点を面に変えていくための研究を堅実に進めなければならない。社会基盤に関しては、規制先進国を目指す制度設計のグランドデザインが必要だろう。医療市場は常に大きな変化を続けているが、2000年代に入ってからは、がんや中枢神経疾患、あるいは希少疾患などを対象とした根治治療がターゲットとなっている。その変化する医療ニーズに対して生み出されるSolution Mixに対して、実用化と臨床使用のルール作りを同時進行で進めなければならない。さらに、今後拡大が予想される成長領域として、予防医療や、早期診断早期介入を図る先制医療、公的保険の枠や医師に頼った医療から離れ患者が自ら投資するセルフメディケーションの領域においても、新たな制度設計を進めるべきである。これに加えて、自動化やICT化を推進して医療の生産性を向上させれば、自ずと日本の医療産業の国際的な競争力は増すだろう。

イノベーションを生む産官学の領域融合は、本日の非常に大きなテーマだが、すでに学では医・工・薬連携というものが世界中で行われており、産では企業融合や異業種参入という形で、新しいイノベーションが生まれつつある。官も省庁の壁を超え、医療特区を始めとした地域クラスタ―作りを主導することなどを通して、各官庁の業務に横軸を通した事業が進んでいる。さらには、健康・医療分野の各省庁に分断された国家戦略が「日本版NIH」という形に統合され、課題解決型研究テーマ・予算の一元管理などを通して、より一層の研究開発の生産性向上や効率化が図られていくだろう。

最後に、このような科学技術、社会基盤の両面でイノベーションを推進できる人材はどこにいるだろうか。日本は前例のないコンセプトデザインを描き実現させることが得意ではない。また、最近は新興国などの成長市場へ、生き残りを掛けた企業の海外進出が著しく、結果的に日本の空洞化が進んでいる。また、ある外国企業のリーダーが言っていたのだが、日本語が日本の職場を保護している現実がある。このバリアがなくなれば、多くの日本人は、国内の仕事さえなくなるのではないか。これを打開するためには、育成段階から縦割りの境界線をなくし、文系、理系、縦割りの溝を埋める融合型人材を育成することが必要だ。知恵を出し合い、ネットワークを作り、Virtual Brainを構築することができれば、それが、イノベーションを育むエンジンとなるはずである。

講演3

東京大学 公共政策大学院 特認教授 大西昭郎

医療分野でのイノベーション政策の動向

東京大学公共政策大学院 特任教授
(前内閣官房 医療イノベーション推進室 次長)
大西 昭郎

昨年(2012年)の6月に公表された医療イノベーション5か年計画では、「革新的医薬品・医療機器の創出」、「世界最先端の医療の実現」、「医療イノベーション推進のための横断的施策」、「戦略期間に新たに議論する必要のある推進方策」として網羅的な議論がなされた。

内閣官房では、各府庁、役所が企画し、実施する施策に関して、調整や連携を進め、一体的な施策の運用を目指して議論を進めてきた。例えば「革新的医薬品・医療機器の創出」に関しては、経済産業省、厚生労働省、文部科学省、外務省、各省の施策をコーディネートし、その効率化を図った。さらに横断的施策は各省にまたがる政策について提言している。これは、いわゆる研究開発の新しいテーマや方向を示すだけではなく、その体制づくり、人材の育成や推進の方策、さらにはヘルスケア・医療のあり方を研究するもので、研究開発にとどまらず、フィールド全体を見渡して、その考え方や技術に対する評価についての検討まで行っている。

医療イノベーション推進室の中で議論してきたことを少し紹介したい。基礎医学は日本が比較的強いと言われている分野だが、これを医薬品・医療機器、医療技術などの開発に結び付けるためには、医療現場と基礎的な医学の研究、さらには治験や臨床研究、先端分野を研究する専門家の活動を結び付けて、具体的に動かすことが必要になる。その際には、規制や制度の整備も大きなテーマとなる。benchからbedside、つまり研究所から病院への交流を促す際には、医工連携や人材育成などがキーワードとなる。そして、bedsideからbenchへの還元も求められる。アウトカムリサーチと技術評価を通じて医療現場で実際に起きた成果、結果をフィードバックすることも必要となる。これらを実現するためには、80年代、90年代に大きく進歩した情報通信技術を活用することも必要であり、これも1つの大きなテーマとなっている。こうしたことが大きくハイライトされてきたことは今回の5カ年計画策定の成果と言えるだろう。

我が国の健康・医療分野におけるイノベーション、成長戦略を考える際、柱としては次の3つが考えられる。1つは健康長寿社会をどうやって実現するかということ。そのためには効果的な医療、新しい医療機器、医薬品などの開発が必要だ。その一方で、もう1つは、医療費や医療機関や研究機関の人材といった、限られた医療資源をいかに有効活用するかということである。そして、この2点を実現することが3つ目の柱でもある、医療産業の発展へとつながっていく。これらの軸を組み合わせ、その議論の中で生まれるイノベーション戦略、または成長戦略が、今後の目標となれば幸いである。

講演4

財務省 主計局主計官 厚生労働係担当 新川 浩嗣

医療保険財政の持続可能性と今後の医療の姿

財務省 主計局 主計官(厚生労働係担当)
新川 浩嗣

赤字や債務残高が多いことから、日本の財政事情はよく世界最悪と言われる。日本の財政事情を、国際比較の上でフェアに分析すると、まず、確かにリーマンショック後、大幅な赤字に転落したイギリスやアメリカに比べれば、日本の赤字幅は小さかった。しかし、問題はその後他国の財政事情は明らかに改善しているのに対して、日本はその赤字幅が広がったままで回復していないことにある。さらに、日本の債務残高は1000兆円を超え、対GDP比では、すでに230%になろうとしている。他国はだいたい対GDP比110%、120%程度であることを考えると、異次元の数字だ。今のところ国債の償還に何の問題も生じていないが、日本は海外に対して、2015年までにマイナス部分を半減させ、2020年にはプライマリーバランスをプラスに転じさせることで、債務残高を減らすまではいかなくても、せめてGDP比横ばいの状態にすることを約束している。

しかし、その間、高齢化に伴って、社会保障の予算は増加する。これまでは国債の発行に加え、政府の予算配分を変えるなどして捻出してきた訳だが、この政府支出にフォーカスすると、1995年の時点で日本はOECD諸国中、韓国に次いで支出が低かった。つまり非常に小さな政府だったのだが、15年後の2010年には、社会保障の支出が嵩んで、中位までランクを上げている。社会保障以外の支出はOECD諸国中最低であるにも関わらず、である。

債務残高の話に戻ると、2014年4月から消費税を8%、翌2015年の10月から10%という予定となっているが、消費税を10%に引き上げて、引き上げた分すべてを社会保障に充当(一部を社会保障の充実に活用)するというプランを実行すると、少なくとも、2015年の中間目標は達成できるという計算になっている。しかし、さらに将来を展望すると、2020年目標にはまだ遠い。やはり、安定財源の確保に加えて、社会保障の中でも、特に医療・介護分野、この伸びをコントロールしない限り、なかなか支出を賄えないというのが現状である。

他方、医療・介護分野に関連する産業は、今後の日本経済におけるけん引役、リーディングセクターにも位置付けられている。しかし、公的保険を支える税と保険料は、他の産業も含めた日本経済を支えるあらゆる人々、産業が拠出するものであるから、その伸びは、日本経済の平均的な伸びに比例する。リーディングセクターを目指すのであれば、これを上回る伸びが必要である。つまり、公的保険依存の制約を克服する、そんな解決策が生まれれば、これぞイノベーションということになるだろう。具体的にいうと、例えば税と保険料が限られているとすれば、より重点化・効率化するような、アイデアや技術を編み出す。あるいは国内のみならず、海外に行って、日本経済をけん引できるような、そんなビジネスモデルやアイデアを活用するという方法もあるはずなのである。

講演5

健康・医療分野におけるイノベーションを推進するための政府の役割

厚生労働省 技術総括審議官
三浦 公嗣

「健康長寿」のためには、身体、精神、社会、スピリチュアルという4つの要素が重要であることは言うまでもない。長寿という観点から述べれば、加齢と共に身体機能、あるいは生活機能が低下していくが、その一方で、知識や経験は増えていく。できるだけ心身の機能を高く維持していくことが重要だ。
そのために必要なものが医療だが、これを支えるのはScience、さらにソフトの部分を補うArtがある。このArtを担う人材は医療イノベーションを実現するための重要な要素であり、これを教育を通して育成したり、社会からいち早く見出すことは、イノベーションを持続させる大きなカギとなる。スティーブ・ジョブスがイノベーションを支えた人間であることは間違いないが、彼が1人いればAppleは不滅かと言えば必ずしもそうではない。そういう人たちを継続的に見出していくための方法を考えていくことが重要だろう。

我が国が抱える研究開発の課題については、まず基礎研究から臨床へのつなぎをどのように考えるかがポイントとなる。
基盤整備、研究強化、それぞれの問題を着実に進めていくためには、産と学の連携を進める中で、役所がこれを支援することが必要になっている。これを具現化するべく、創薬支援機能の強化に対する方策の1つとして、先日、「創薬支援戦略室」が独立行政法人医薬基盤研究所に設置され、活動を開始したところである。オールジャパンでの創薬支援ということで、医薬基盤研究所のみならず、理化学研究所や産業技術総合研究所が連携をしつつ、現場の研究者の皆さんと連携を進めていく。その活動を通して、基礎研究から治験、そして、製品の導出というところに進めていくというのが全体の構図であり、この創薬支援ネットワークというものも、産・官・学、それぞれの連携の中に存在している。

この他、再生医療、あるいは個別化医療の推進という課題もある。厚生労働省としては、再生医療について、再生医療新法を今国会に提出する予定である。薬事法についても、医療機器の特性を見据えた形での改正を念頭に置くなど、レギュレーションについても環境を整えていく方針だ。さらに、省内にその推進本部を設置し、我が国全体のイノベーション、医療分野におけるイノベーションを支える1つの柱として、十分な展開を図っていきたい。

講演6

武田薬品工業株式会社 コーポレートオフィサー 平手晴彦

日本発製薬企業のグローバル市場への挑戦

武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー
平手 晴彦

創薬型の製薬産業が、どのような使命を持っており、あるいは日本のイノベーションを追求する動きの中でどのような役割を果たせるのかといったところを述べたい。
まず、アンメットメディカルニーズ。"こんな薬が出てくれれば"と待ちわびている患者さんのために、これを創出して市場に送り出すことは我々の使命そのものである。さらに、イノベーションに立脚するということは重要だ。つまり、日本発の特許に立脚するビジネスモデルであらねばならない。領域のトップバッターだけに与えられるのが特許であり、最先端を走るという意味で、特許は象徴的な存在と言える。また、R&D投資の重さに耐える体力を備えていることも欠かせない。国内の業界でもかなり合併が進められてきたが、やはり、R&D投資で2000億円程度を捻出する体力を維持するのは大変な苦労である。

2012年の段階におけるフェーズ1からフェーズ3までの数をカウントすると、武田薬品工業では149本の治験をグローバルに走らせており、数だけは世界で7位という位置にいる。治験をこれだけ走らせることは、財政的には極めて難しく、大きな負担である。特にフェーズ3に入るような治験については、グローバル治験1本で約800億円を要するものがある。経営会議で、その継続の是非を議論するシーンに私も遭遇した経験がある。しかし、半導体産業で、工場のライン1本に100億円の投資を行ったら日経新聞の1面に掲載される。これに対して、医薬品産業が800億円の治験をスタートする投資をしても、囲み記事にもならない。実際、医薬品産業は強烈なリターン・オン・インベストメントであり、ギリギリの賭けをするような形で追求しながら勝負をしているわけだが、そのビジネスモデルへの理解が、日本の経済界においてもまだまだ進んでいない。そういった部分は十分にアピールをしていく必要があるだろう。

イノベーションという観点からは少し外れるかもしれないが、予防医学に関して触れておきたい。平均寿命と健康寿命の話はご存じだと思うが、私の父や母も他界する前は10年ほど寝たきりだった。人生80年以上と言っても、最後の10年が寝たきりでは意味がない。我が国は今後、やはり最期まで元気に過ごせる国を目指していく必要がある。街角の診療所におじいさんが訪ねて行って、「先生、俺はどういう食事をすればいいんだ」と、「どういう運動をすれば元気に過ごせるんだ」と聞いたとする。その医師のアドバイスを受けて、おじいさんが1年間、元気に、ゆっくり過ごせたとしたら、これは素晴らしい医療行為だと思うのだが、現在の日本の医療制度の下では、初診料はもちろん、実施料が発生しない。元気な人を元気にしようという努力が評価されない。そんな日本の医療体制を、私は何とかしなければいけないと思っている。「日本に来れば元気に過ごせる」と言って、近隣諸国の人々が日本を目指す。それが最高の医療であり、輸出すべき医療というものではないだろうか。人が病気になるのを待って、それを治すのではなく、人を病気にさせない、元気な人が長く元気でいられるようにする。これこそ、日本の医療が目指すべき方向ではないだろうか。

講演7

日本製薬工業協会 会長 手代木功

『創薬立国 日本』に向けた産官学連携の取り組み

日本製薬工業協会 会長
塩野義製薬株式会社 代表取締役社長
手代木 功

実は創薬そのものも極めて大きなイノベーションである。新しい薬を世の中に送り出して、いろいろな方の病気を治し、生活も助けるからに他ならないが、今後は、さらに、創薬を取り巻く仕組み、枠組みといったものをどのように推進し、今、我々が持っている創薬力をさらに進化させて、創薬立国を目指しながら、その部分にどのようなイノベーションを見出すのかということが、非常に大きな課題だと考えている。

ちょうど一昨日、官民対話が開催された。新政権の下で、官と民が本当に率直に議論できる試みがスタートしたということで、非常にありがたく思っている。そういったことに基づいて話をさせていただきたい。

医療イノベーション推進のために、まず、強化すべき事項として、「1.健康・医療政策に関する司令塔機能の充実・強化、ならびに健康・医療予算の拡充・重点化」「2.研究開発促進、国際競争力強化のための税制改正の実現」「3.『新薬創出・適応外薬解消等促進加算』の完全・恒久実施」という3つのポイントが挙げられる。
1番目のポイントは、私どもが世界第3位の創薬力を持っている国であるという強みを認識しなければいけないだろうということ。その強みを認識した上で、どのようにこれを伸ばしていくか。そのためには、日本版NIHの創設、創薬支援ネットワークによる実用化支援の強化、ARO機能を併せ持つ臨床研究中核病院の整備といったことを実現させていく。

2番目のポイントは、そういったイノベーションを実現するために、その環境を整える必要があるだろうということで、端的に税制と言っているが、その中身についても日本の強みを出していったらどうかということである。研究開発促進等のための税制ということで、これは事実として、当面、2年間の措置として、研究開発費の全額控除、これを最大30%にしていただいたと。これは業界として非常に大きな一歩を踏み出していただいたということで、感謝しているが、ある意味でこれはスタートだとも思っている。

それから3番目は実際にイノベーションを実現したときに、本当に褒めてもらえるのかということ。継続的にイノベーションを生み出すための新しい加算の仕組みというものをなるべく早期に確立したい。これは官民対話の際にも申し上げているが、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」の仕組みについては、欧米のメガファーマなどから、「こんなにイノベーションに対して前向きに考える国はない。日本に対する見方が180度変わった」と言ってもらえる程、非常にノーベルな仕組みであり、さらに申請ラグの短縮によるドラッグ・ラグの解消、国内開発品目数の増加にも寄与している。このような結果は、仕組みの中でイノベーションが起こっていない限り起こり得ないだろう。

我々が本当に成長産業であるなら、国全体のGDPを遥かにしのぐ成長を製薬企業が起こしていかなければ、成長産業とは呼べないのではないだろうかという話もあった。それを受けて、我々としても仕組みの上で、さらなるイノベーションを起こしていけると思っているし、そのために産官学の連携を強力に推進していくことが非常に重要だと感じている。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、白神及び中村座長の下、初めに7名のパネリストの間で意見交換が行われた。特に各発表において、医療イノベーションの重要なキーワードとして、頻繁に取り上げられた「特許」と「人材」については、産・官・学、それぞれの立場から積極的な意見、提言がなされた。その後会場からの質疑応答に移り、まず外務省の小沼氏、文部科学省の板倉氏、経済産業省の仁賀氏、さらにファイザー株式会社の豊沢氏、それぞれの立場から見解が述べられた。そのほか、「日本ではイノベーションに対するインセンティブを守る契約面が脆弱である」「留学生が激減し、外資の研究所が次々と撤退するような現在の日本で、果たしてイノベーションが推進できるのか」「日本からイノベーションを発信するという議論と企業が国際競争力を強めるという議論が混同してしまっている」といった問題提起などもあり、予定されていた85分をオーバーする、まさにイノベーティブなディスカッションとなった。