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シンポジウム

産官学シンポジウム 「画期的新薬創出の加速のため、
産官学は各々いかなる機能を果たすべきか」
 

シンポジウムの様子 世界最先端の医薬品や医療技術を日本から発信し、健康・医療分野に係る産業を戦略産業として育成すべく、現在さまざまな対応や議論が進んでいます。
今回が2回目となる「産官学シンポジウム」では、産官学より6名のキーパーソンをお招きし、医療イノベーションに関する講演と、会場からの意見を交えながらのディスカッションを展開。初めてとなる会場で、かつ土曜日にもかかわらず、多くの方にご参加いただき、テーマに対する関心の高さがうかがえました。
事務局編集による各講演内容の要約は、次の通りです。

開催概要

日 時
平成26年5月24日(土)13:30〜17:00
会 場
全社協・灘尾ホール
東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階
主 催
公益財団法人 医療科学研究所
後 援
内閣府 厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 江利川 毅
座長趣旨説明 日本大学 薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
白神 誠
基調講演(各20分) 内閣官房健康・医療戦略室 次長 菱山 豊
東京大学大学院 医学系研究科 教授 渋谷 健司
アステラス製薬株式会社 代表取締役会長 野木森 雅郁
パネリストスピーチ(各10分) 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 理事長 近藤 達也
京都大学大学院 医学研究科 特任教授 成宮 周
ファイザー株式会社 代表取締役社長 梅田 一郎
パネルディスカッション    
閉会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 専務理事 戸田 健二

(敬称略)

座長趣旨説明

公益財団法人医療科学研究所理事 白神誠

日本大学 薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
白神 誠

今回で2回目となる医療科学研究所の産官学シンポジウムは、産官学の連携のために何かできることはないかと内部での議論を経て始まった。産官学が対等の立場から議論をするなかから何かしらの知見を得ていただきたい。結論を出すのは本シンポジウムの目的ではないので、ご登壇いただく先生だけでなく、会場の皆様からもご意見、あるいは情報提供をいただきたい。

今回は、昨年のテーマ「イノベーション推進への期待と課題」をさらに掘り下げた内容となっており、医療科学研究所でも引き続き議論を重ねていきたいと考えている。

基調講演1

内閣官房健康・医療戦略室次長 菱山豊

新たな医療分野の研究開発体制について

内閣官房健康・医療戦略室 次長
菱山 豊

折しも昨日、健康・医療戦略推進法および独立行政法人日本医療研究開発機構法案が成立し、まさにこれから新しい研究開発体制を構築していくことになる。政府としても一歩足を踏み出した。主たるプレイヤーとなる産業界とアカデミアの産学官で力を合わせて新たな医薬品・医療機器を開発していきたい。

この4月にまとめた医療分野の研究開発に関する総合戦略において、有識者より課題が示されている。基礎研究においては、研究成果の展開に関するマネジメントが不十分である点が指摘された。PD(プログラムディレクター)、PO(プログラムオフィサー)を任命し、研究成果を出口までマネジメントできるしくみにしたい。臨床研究の問題点としては、データ管理、知財、倫理等の研究支援体制と研究費が不十分である点が挙げられたが、これに対しては各専門家の配置などによる支援が必要。企業については、企業規模が小さい、ベンチャー企業が不足しているという指摘があったが、これについては産業界でしっかりと進めていただきたい。国の縦割りの研究支援にも言及されているが、新たな独立行政法人「日本医療研究開発機構(仮称)」を創設し、文科省、厚労省、経産省それぞれの予算をそこにまとめ、一気通貫のマネジメントを行っていく。特に国が定めた戦略に基づくトップダウンの研究については、同機構に集約する。国としても医療の研究開発は重要視しており、ここには約1,400億円という大きな予算をつけている。研究者の発意によるボトムアップの基礎研究から発掘したシーズについては、同機構へのシームレスな移行を図っていきたい。

同機構では、トップダウン型の実用化を視野に入れた研究開発を、基礎から実用化まで一貫して管理する。そのなかでPD、POを活用したマネジメント機能はキーになると思われる。しっかりとした研究不正の防止、臨床研究コーディネーターなど専門人材の配置支援、さらに産業界に向けては知財取得のための様々な支援を行っていく。またPMDAとの連携も進め、企業との結びつき、国際戦略についても強化していきたい。ミッションは多岐にわたるが、来年4月1日より業務開始できるよう準備を進めている。皆様の力を注いでいただけるような法人にしていきたい。

基調講演2

東京大学大学院 医学系研究科 教授 渋谷 健司

我が国において革新的な創薬を行うために
─メディカル・ビッグバンの実現に向けて─

東京大学大学院 医学系研究科 教授
渋谷 健司

創薬では死の谷の克服や橋渡し研究の必要性が盛んに言われている。しかし、リソースをつぎこんで橋を架ければ創薬が可能かというと、それは幻想だと思う。創薬に限らず日本の置かれたポジションは、世界大学ランキングを見ると明らかである。最新のタイムズ高等教育ランキングでは、東京大学は23位。別のQSランキングでは2007年に17位だったのが2013年は32位まで降下し、シンガポール国立大学や香港大学に抜かれている。それら大学と比べると東京大学は国際性が圧倒的に低い。イノベーションには多様性、競争できる環境が必要。ベスト&ブライテストな人材が創薬の分野に集まらなければ、創薬は沈没してしまうだろう。

日本は米国に比べると革新的創薬が少ない。一つの要因は、長期収載薬やジェネリック薬の薬価も高いために、これまで革新的創薬をつくらなくても生きていける環境があったことだろう。そんな中、臨床研究不正が多発し、製薬企業と医療界の癒着が取りざたされている。こうしたマーケットは20年前の金融業界と似ている。今、医療界に金融界と同じビッグバン(グローバル、フェア、フリーの原則)が起こらなければ、日本は革新的創薬で世界と戦えるのだろうか。

日本版NIHが設立される今、革新的創薬を進めるために日本版NIHに必要な機能は、@国内外の国際的知見を有する幅広い専門家が集結したアドバイザリーボードの設置、Aグローバルアライアンスを前提としたプロジェクトへの優先的なコア資金の配分、Bコア資金の成果に関する定量的クライテリアによる評価・フィードバックの実施である。それに加えて、中長期的には、長期収載薬やジェネリック薬の薬価水準を国際レベルまで引き下げることが必要であると考える。

こうした中で、グローバルヘルスの視点は重要である。グローバルヘルスはいろんな意味で変わってきている。グローバルヘルスは、保健医療の「3つのD」(Discovery、Development、Delivery)の全てに関わり、そこに国益としての開発、成長戦略、国家安全保障を絡める必要がある。しかし、医薬品アクセス貢献度ランキングでも日本の製薬企業はボトム3に甘んじている。将来のマーケットは新興国にある。彼らと戦略を策定し、彼らが買える薬を作っていくことが将来の市場を獲得する近道である。そのためにも医薬品アクセス貢献度ランキングでもトップ3を目指すべきである。

なかでも、とりわけ人材が重要である。日本でも実は世界でも戦える優秀な人材は多い。今後の医療人材教育も、ロジカル思考のみではなく、コンピテンシーに基づいた教育で、地域とグローバルの視点をもったシステム思考が重視されるであろう。ケネディ大統領のスピーチにあるように、今までなかったことを望んでやってみようという人が必要。海外の方や女性も含め多様な人材を集め、製薬業界がエッジの効いた世界になってほしい。橋渡しのためのお金を待っているのではなく、自分で橋をかけに行く気概が必要である。

基調講演3

アステラス製薬株式会社 代表取締役会長 野木森雅郁

最近の創薬におけるパラダイムシフトとシフトに対応した産官学連携

アステラス製薬株式会社 代表取締役会長
野木森 雅郁

高齢化社会となり医療費負担が増加すると同時に、研究開発の難易度は年々上昇している。そんななか、ひとつの流れとしてオープンイノベーションが起きている。新しいトライをして臨み、革新的新薬を創製する必要がある。

日本は世界最速で超高齢社会が到来する。医療費の増加が止まらないなか、求められているのは、もっと効率的に治療効果を発揮できる革新的な医薬品。一方で、研究開発費あたりの新薬創出は減少しており、創薬技術の幅の広がりと治験の規模の拡大も創薬の難易度に関係している。個別化医療が期待されているが、高い診断制度と臨床的有用性を持つバイオマーカーの探索が課題となる。このようには従来型の「自前主義」ではパラダイムシフトに対応できないため、効率化、競合優位性の確保、社外リソースや世の中の先端技術の活用といったオープンイノベーションが製薬企業の至上命題と考えられている。

今後はアカデミア、ベンチャー、他製薬メーカーとの境界を設けずに、もっとダイナミックなイノベーションが必要。そのためには産官学が一体となった取り組みが必要。産官学連携の事例としては、SACLA、Spring-8、スーパーコンピュータ「京」などが現実的になっている。また、産から学に共同研究をもちかける公募システムも活用されている。

個別化医療に向けた次世代オープンイノベーションの例としては、Big Data活用がある。患者さんのデータを匿名化しながらまとめ、治験とはちがった形で生データを医薬品の評価に役立てることができる。検診データから診療データまでを一体化して使えるようになり、患者さんの背景が高い精度で掴めれば、バイオマーカー探索や疾患の原因の特定ができ、新しい治療薬の開発につながるだろう。

オープンイノベーションにおいて産がすべきは、新しい枠組みの提案やボーダーレス連携の実行。私たち自身がもっと大胆にオープン性を上げていくことが必要と考える。 アカデミアはより患者さんに近く、企業に比べ基礎研究を行いやすい。その特徴を活かしながら協力していく。国にはプロジェクトが巨大化した際のリーダーシップの発揮と長期的な予算提供に期待したい。同時にバイオインフォマティックス分野など不足している人材の早期育成支援もお願いしたい。産官学が互いにオーバーラップし、相互に刺激し合いながら活動できる環境構築が望ましい。

パネリスト発表1

医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長 近藤達也

世界に先駆けた日本発の革新的な製品の実用化に向けたPMDAの挑戦

医薬品医療機器総合機構(PMDA) 理事長
近藤 達也

産官学の取り組みは国民・社会のためになることが前提。レギュラトリーサイエンス(RS)、すなわち国民・社会のための倫理的な科学があって、初めて国民目線での産官学の連携が可能と考えている。医薬品や医療機器の分野におけるRSは、倫理観をもって、国民が使ってもよいかという観点から、品質・有効性・安全性を見定める科学と言える。RSの3つの柱は、@RS Microscopic(評価方法の改善)、ARS Macroscopic(多要素間のバランスの検討)、BRS Engineering(トランスレーショナルリサーチへの対応、法令作成)であり、薬学、医学、法学、工学と様々な方がこの科学に学際的に加わっていくことになる。

日本の新医薬品・新医療機器の審査期間は短くなり、審査の質も高くなってきたと海外からの評価は高い。一方で、医薬品シーズの創出について、日本は世界3位と言われるが、世界に先駆けて実用化されるケースは多いとは言えない現状にある。今後はアカデミアの世界での発見をどのようにして医薬品に育てていくかが大きな課題となる。

基礎研究から実用化までの間にある大きな障壁である、いわゆる「死の谷」には、研究開発資金の不足、人材の不足、知財戦略の欠如、規制への理解の不足などがある。PMDAでは規制への理解の不足を解消するために、3年前より薬事戦略相談事業を始め、薬事規制の観点から開発戦略や試験プロトコルへのアドバイスを実施している。実用化のために、行政が産学に対して、助言する仕組みである薬事戦略相談は、まさに倫理観のあるRSがあってこそ実現できている産と官学の連携の実例と考える。これまでに1,600件もの相談を受けており、今後とも、アカデミアやベンチャーはぜひ活用してほしい。

今後5年間で、PMDAは、審査ラグ「0」の実現、開発ラグ解消の支援、安全対策の強化に取組んでいく。2年前には科学委員会を設けたが、ここでの成果も活用し、世界的に信用のある審査・安全対策を担う機関を目指していく。

産官学が力を合わせ、国民目線で連携することは、RSがあって初めて可能であり、今後ともRSに基づく取り組みを進めていきたい。

パネリスト発表2

京都大学大学院 医学研究科 特任教授 成宮周

新薬創出のための双方向性産学連携
〜AKプロジェクトの経験から〜

京都大学大学院 医学研究科 特任教授
成宮 周

AKプロジェクトは、アステラス製薬と京都大学が1対1の連携により、難病を克服する画期的な新薬で人類の福祉と健康に貢献すると同時に、ポストゲノム時代の創薬モデル構築と日本発のGame changing drugs創製を目的としている。10年間のプログラムで、文科省、アステラス製薬の1対1の出資によって経営。119名のうち女性が42名、アステラス製薬からは13名が参加。学内共同研究によりバイオマーカーの探索や創薬ターゲットの適応症の研究などを行っている。化合物の探索や抗体の作成はアステラスのつくばのラボで行われ、その結果はプロジェクトにフィードバックされている。

大学がもっている様々な基礎技術と、企業がもっている技術を融合させ、そこで創薬を行うが、特徴としては患者の病理標本にアクセスできる点がある。一つひとつの対象疾患については、MDとPhD、アステラス研究者がクラスターをつくって研究している。

AKプロジェクトのオープンイノベーションは、企業にはできない創薬の実験工房として機能している。企業ではゲノムベースの創薬が主流であるが、ここではそれと共に表現型スクリーニングを重視している。産学連携で創薬を成功させる双方向アプローチとして、@アカデミアの知を企業に注入、A企業の薬物・抗体を拠点の研究で臨床につなぐことを行っている。

大学のアイデアと企業のシーズには距離があるが、その距離を縮めた例にアトピー性皮膚炎におけるFLG誘導薬物JTC-801の創出があるが、これは薬物研究が新しい科学の創造に結びついた例と言える。今後も医学の知を創薬に活かすことで、F. ベーコンの「知は力なり」を示していきたい。

パネリスト発表3

ファイザー株式会社代表取締役社長 梅田一郎

イノベーションを加速する為のドライバー
オープンイノベーション

ファイザー株式会社 代表取締役社長
梅田 一郎

ファイザーには全世界共通で4つの主要戦略があり、イノベーション基盤の強化は最重要項目。多額の研究開発費を投資すれば画期的な新薬を次々に創出できるかというとそうではない。今は一企業が創薬から臨床開発まで全てを担当するには限界がある。欧米では製薬企業が垣根を越えて協働する動きが出ている。資源、人財、能力を出し合い、成果はオープンにして共有している。

ファイザー日本法人は日本初のサイエンスを世界に向けて発信することを大きな柱と捉え、日本のアカデミア、バイオベンチャー、製薬会社との連携を加速している。従来はゴールが不明瞭なままスタートしたり、相互利益の関係が成立していない、また企業側としては研究者に対しオープンではない、研究と開発が一体でないケースがあった。今後の共同研究では、事前にゴールを明確にし、研究計画書を一緒に作成する。また、ひとつのチームとして活動することで、成功率の高いコラボレーションを目指す。ファイザーでも、注力している領域や必要としているサイエンスや技術の情報公開を行い、広くパートナーを求めている。

医薬品の発見源は日本では製薬企業が8割に上るのに対し、米国では6割が大学やバイオベンチャー由来であり、メガファーマ由来の新薬は半分にも満たない。基礎研究力が高い日本は、産官学連携を強化する余地とその必要性がある。 2012年に上市された弊社のクリゾチニブは、当時自治医大の間野教授らによって発見されたEML4-ALK融合遺伝子が2007年Natureに掲載された後、ファイザーが開発候補品にいち早く臨床応用して好事例。日本には優秀な基礎研究力に基づくアイデアが豊富にあり、基礎研究の成果を臨床応用に繋げる仕組みができれば、このような事例が増えてくる。

日本には優れた基礎研究力、欧米に比べても遜色のない効率的な審査体制と審査機関がある。さらに日本はアジアで唯一の新薬創出国であり、画期的な新薬を創出する力がある。外資・内資を問わず企業が国内の大学や研究機関とオープンなPartneringを進めることで、日本にTranslational Researchの実績が積み重なり、その仕組みも出来上がる。また、海外からの投資や留学生および研究者を増やし、日本を創薬のアジアの拠点にしていきたい。

パネルディスカッション

パネルディスカッション パネルディスカッションでは、白神座長と6名の登壇者との間でさかんな意見交換が行われた。日本と欧米でのオープンイノベーションの違いについて掘り下げられたほか、サイエンスのトレンドからしてもアカデミア発の創薬が望ましいという官からの提言もなされた。

会場からの質問および意見、情報提供に多くの時間がさかれたのも今回のシンポジウムの成果のひとつと言えるだろう。意見の食い違いに緊張感が走る場面や、会場が笑いに包まれる場面では大きな一体感もうかがえた。今後の産官学連携の在り方に期待を膨らませながら時間は尽きてしまったが、折しもの健康・医療戦略推進法および独立行政法人日本医療研究開発機構法案の成立を追い風に、さらなる議論が進んでいくことを予感させての閉幕となった。