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シンポジウム

医研シンポジウム 医師主導の臨床治験・臨床研究の問題と体制整備のあり方
 

シンポジウムのようす画期的な医薬品をいち早く患者様の元に届けるために、また日本の医薬品分野が国際市場をリードし、国内に経済成長をもたらすためには、医師主導の臨床治験・臨床研究が極めて重要です。臨床研究中核病院が制度化され、関係者の注目を集めるなか開催された今回の医研シンポジウムには予想を上回る申込みをいただき、早々に定員に達しました。この盛況ぶりからも、医師主導の臨床治験がいかに関心の高いテーマであるか、そして課題解決と質の向上のためにさらなる議論が必要であることが確信できました。
事務局編集による座長基調講演および各パネリスト講演の抄録は次の通りです。

講演録は、機関誌『医療と社会』(Vol25,No.4, 2016年1月発刊)に掲載しています。

開催概要

日 時
2015年9月16日(水)
会 場
全社協・灘尾ホール
東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階
主 催
公益財団法人 医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 江利川 毅
来賓挨拶 厚生労働省 医政局長 二川 一男
座長基調講演 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 理事長 近藤 達也
パネリスト 厚生労働省 医政局 研究開発振興課長
(再生医療等研究推進室長併任)
神ノ田 昌博
国立がん研究センター
先端医療開発センター・センター長
大津 敦
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 委員長 稲垣 治
兵庫医科大学 医学部 医学科
医療統計学教室 教授
大門 貴志
パネルディスカッション    
開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 専務理事 戸田 健二

(敬称略)

座長基調講演

近藤 達也氏の写真

医師主導の臨床治験・臨床研究の課題と体制整備のあり方

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 理事長
近藤 達也

今、医療の進歩に必要な臨床研究のあり方が問われている。2013年の売り上げ上位100品目における主要国別オリジン新薬数では、日本は米国に次ぐ品目数を有する。日本は多くのシーズを生み出す国であり、創薬・創医療機器能力は高いと言える。

薬機法で重要なことは、常に信頼性確認が求められることにある。とりわけ患者を含む不特定多数が関わる薬事は、究極の医療倫理と言える。信頼性を確保するために、承認や再審査・再評価の申請については、@データの信頼性のためのGXP(GCP、GPSP)、A申請資料の信頼性基準(正確性、完全性・網羅性、保存性)に従って収集・作成されたものでなくてはならない。この基準適合の調査は厚生労働大臣がPMDAに行わせることができる。

臨床研究の様々な問題点が指摘されるなか、我々は国全体で国民の健康を守るために、データの信頼性保証体制を実践し、治験・研究体制を整備して行かなくてはならない。政府のレベルで体制・指導が徹底され、それに沿って医療機関が研究を行っていくことになる。

臨床研究中核病院が医療法の改正により制度化された。承認要件については、能力(実施体制・実績)、施設、人員の観点から検討した結果、非常に高いハードルが設けられた。人員要件については、生物統計家が2名、薬事承認審査機関経験者が1名必要な点が特筆される。

知識をもった者の判断でなければ国民の信頼は得られないという観点から、PMDAは7年前に連携大学院制度を設け、アカデミアからの人員を流動的に求められるしくみを開始した。やがてiPS細胞をはじめ研究テーマが増えてくると、テーマごとの人材交流を図るようになった。これらが包括的連携協定に発展。大学や研究機関とPMDAとの相互の人材派遣によりインテリジェンスを向上させ、正しい判断ができるしくみを構築した。今後も人材交流は必須事項である。

AMEDとの連携により、シームレスなトランスレーショナルリサーチを遂行し、日本の創薬イノベーションを強化していくことも欠かせない。また、厚生労働省のクリニカル・イノベーション・ネットワーク構想にも、PMDA、AMEDがさまざまな形で関与することで、滞りやムダが出ない環境を整備していく。

パネリスト講演1

神ノ田 昌博氏の写真

臨床研究をめぐる行政の動き

厚生労働省 医政局 研究開発振興課長
(再生医療等研究推進室長併任)
神ノ田 昌博

医薬品をめぐる現状と課題について。医薬品産業の市場規模は景気動向に左右されることなく安定的な成長を続けている。世界を見ると日本の10倍ほどの市場規模があり、グローバル展開への期待がかかる。また、知識・技術集約型の高付加価値産業であると言える。こうしたことから政府では、健康・医療戦略を推進している。

疾患ごとの治療の満足度を見ると、画期的な新薬により医療が大きく進歩した一方、アンメットメディカルニーズへの対応が待たれる。これには成功率やコスト面の課題があり、製薬企業とアカデミア等のアライアンスやグローバル化の促進が鍵となる。米国のAMPやEUのIMIのような産学官共同研究の枠組みが必要である。

クリニカル・イノベーション・ネットワークは疾患登録情報を用いて効率的な治験ができる環境を整備しようというもの。被験者を容易に探せたり、数を減らせるメリットがある。ナショナルセンターや臨床研究中核病院が中心となって疾患登録システムを構築し、企業の参画により治験コンソーシアムを形成。PMDA、AMEDとも連携し、グローバルな視点での効率的な新薬創出を行う。来年度はゲノム医療実用化プロジェクトも開始し、5年間で10万人分のゲノム情報集積とデータベース化を目指す。ゲノム情報と臨床情報が連結できればより多くのシーズが見つかることが期待される。

臨床研究の拠点整備について。日本は基礎研究には強いが、臨床研究の基盤は脆弱と言われる。実用化に結びつきにくいのは、臨床研究施設が少ない点が挙げられる。これを克服するために臨床研究中核病院を本年4月より医療法上に位置づけ、他の病院を含めた全体の底上げを図る。承認要件が厳しいと言われるが、出口戦略を描くためには必要なものと考える。

臨床研究の信頼回復のための取り組みについて。高血圧症治療薬の問題を受け、昨年4月に報告書をまとめた。行政としては、「臨床研究に関する倫理指針」の見直しと、法制度の必要性について検討を進めなければならない。倫理指針については倫理審査委員会の機能強化、研究責任者の責務の明確化などの項目を盛り込み、この4月に施行する。法規制については、研究の萎縮防止のため、規制と研究者の自助努力等のバランスが重要。インフォームドコンセントや利益相反にも適切に関与しながら法制度化を進めていきたい。

パネリスト講演2

大津 敦氏の写真

先端的ながん新薬開発を目指して:
国立がん研究センターの取り組み

国立がん研究センター
先端医療開発センター センター長
大津 敦

アカデミアの立場から取り組みを紹介する。日本の研究者主導臨床試験の問題は様々だが、特に、先進国でICH-GCPに準拠していない(研究の質が保証されていない)のは日本のみである点は大きい。

日本は基礎研究のレベルは高い。しかし日本のアカデミアが開発しながら、実用化が外資であっては、日本の患者が恩恵を受けられない。最初に開発しても承認されるのが最後という歴史を止めるのが、我々のモチベーションである。産官学一体となって開発を目指す米国に対し、日本は企業任せであった。開発に携わってこなかった我々にも責任の一端がある。

国の早期・探索的臨床試験拠点整備事業により、2013年、国立がん研究センターに先端医療開発センターが設置された。そのミッションは、@新規医薬品・医療機器のシーズ開発と臨床導入、A新規医薬品・医療機器のFirst-in-human試験と早期開発医師主導治験/臨床試験の実施、B付随するトランスレーショナルリサーチ。我々が目指すのは日本から開発を進め、アジア、欧米に広げ、グローバル市場で承認を取得すること。日本が最初に承認されなければ魅力は乏しくなる。よって、Phase Iを世界に先駆けて実施できるかが鍵となる。その基盤整備として、8つの企業との包括的連携契約、知財に関する産学連携の組織構築、創薬支援ネットワークとの連携、当センター主催の産官学連携シンポジウムなどを行っている。

国立がん研究センターには177のシーズがある。企業との連携が多数行われているため効率的な開発が可能となる。実際、アカデミア初のシーズ開発も進んでいる。我々としては、Phase Iの段階においては海外との時差はまったく感じていない。

治験責任医師のGCPトレーニングや各種セミナー、内部監査など、臨床試験信頼性確保への取り組み、企業資金による契約型医師主導治験独立性の確保も行っている。こうしたなか、我々のサポートによる未承認薬医師主導治験の実績は17試験に上っている。企業との協働により日本が世界最初の承認国となった大腸癌の薬も既にある。こうしたスピード感のある医師主導治験の実施は、日本の臨床研究者にグローバルリーダーへのチャンスを与えることにもつながる。

がんゲノムスクリーニングと新薬開発試験については、すでに国家的なスクリーニングネットワークを構築した。欧米との競争と協働により、将来的なデータ共有を図ることで、Precision medicineのデータをリードできるだろう。公的な知財取得と産学への公平な二次利用の供出は、次の創薬への貴重な情報となると考える。いずれにしてもスピードが重要で、世界の進歩をいち早くキャッチアップできるようなシステム構築が急がれる。

パネリスト講演3

稲垣 治氏の写真

製薬企業からの医師主導臨床研究への期待
─革新的な治療薬創製のために─

日本製薬工業協会
医薬品評価委員会 委員長
稲垣 治

製薬協は、研究開発指向型の製薬企業72社が加盟する任意団体である。我々の使命は世に求められる新たな薬を創り出すことにあるが、その一方で、医薬品開発は一般的に成功確率が低く、開発着手を決断する際には臨床試験実施の可能性と製造販売承認取得の見込みをふまえた慎重な判断が求められる。その際、治験の対象となる患者さんが明確であることや、疾病に対する治療効果を反映する適切な臨床評価方法の有無が重要な論点となる。発病の機構が明らかでなく、治療方法も確立していない難病の治療薬開発では、対象疾患の定義(診断方法)や治療効果の評価法が定まっていない場合もあり、また患者数が少ないため症例が集まらず、臨床試験の実施が困難になったり、試験期間の長期化が見込まれることが多い。その結果、治療効果の確認にも時間がかかるため成功確率の見通しが立てにくく、開発着手の判断に踏み切れない場合も出てきてしまう。難病領域の治療薬開発では、アカデミアの臨床試験によって疾病への科学的知見が深まり、開発着手判断での不確定要素が減ることを期待している

すべての疾患研究の元となるデータは患者さんに由来するが、製薬企業は直接患者さんに接することはできない。疾患に関係する研究シーズの発見は患者さんを診る医療機関やアカデミアが担い、産学連携でデータを共有し治療薬候補のスクリーニングと最適化を行って、企業が医薬品として開発・申請する流れが一般的である。また治験においても企業が試験計画を考えるものの、実際の研究はアカデミア・医療機関で実施いただくことになる。製造販売後の調査等に係るデータ取得も同様で、アカデミアと患者さんの協力なしでは、医薬品開発や医薬品の適正使用推進活動はできない。疾患に関する研究では新規創薬標的やバイオマーカーの探索、医薬品開発や治療方法の段階では承認申請に用いることのできる有効性の評価方法、さらに市販後は実医療下での適正使用の評価方法の研究など、医薬品開発におけるアカデミアの臨床研究が果たすべき役割は大きい。

画期的新薬創製のためには、「患」「学」「官」「産」の連携が欠かせない。官による研究助成を受けて医療機関・アカデミアが患者さんのデータを取得し、また必要に応じ医師主導の臨床試験を行う。その成果を産業側が活用し、官(規制側)の指導を受け医薬品として開発し患者さんにお届けするという流れが円滑に進むことが好ましいと思う。

さらに言えば、かつて医薬品開発のための臨床試験(治験)はもっぱら製薬企業が行っていた。しかし今ではアカデミア主導の治験も増えており、企業としてはそれらの結果も有効活用させていただきたいと考えている。研究者主導臨床試験における「成功」とは、想定した仮説に対して結論が得られることであるが、医薬品開発の面からもっとも重要なのは臨床試験で得られたデータが出口につながる形で活用できること。すなわち、承認取得(場合によっては保険適用)のための申請資料に使えることである。そのためには、試験が予定された期間内に終了することと、申請に耐えるだけのデータの質が担保されることが重要となる。

我々製薬企業は、患者さんとアカデミアの協力により、患者さんからのデータを元に官とアカデミアの橋渡し研究により得られたシーズを画期的医薬品に開発し、患者さんの元にお届けしたいと考えている。

パネリスト講演4

大門 貴志氏の写真

臨床研究の質の管理・保証・向上のために
生物統計家は何を思うか

兵庫医科大学 医学部 医学科
医療統計学教室 教授
大門 貴志

臨床研究とは、患者を対象とした医学における真実の追求といえ、これは一連の「過程」である。臨床研究の質の高低が議論されることがあるが、臨床研究の質とは何かを考えるとき、品質管理の考え方を考慮に入れると、それは、臨床研究のプロセスそのものとともに、臨床研究に関与する第三者(例えば、PMDAや厚労省、研究者、患者)が満足のいく程度であると定義できるかもしれない。先の高血圧症治療薬臨床研究事案では、カルテと解析データセットの間で情報操作が行われ、臨床研究の質としてのデータの質が管理・保証されなかった。こういったことを防ぎ、臨床研究の質を管理・保証・向上させるためには、第三者的な視点での品質管理・品質保証、それらを支える人材の育成と創出が欠かせない。本学でも、多くの大学と同様、これらを実践すべく昨年8月に臨床研究支援センターを立ち上げた。

とくに、私がその必要性を痛感しているのは、人材の育成と創出である。これを遂行していくにあたり、二つの視点がある。すなわち、@「いま」を担う研究者、A「将来」を担う研究者の双方の視点である。@の人たちには臨床研究に係る知識の「深耕」を行う。これは、人材の育成、ひいては臨床研究の質の向上につながる。Aの人たちには、臨床研究に係る知識の「種蒔」を行う。これは、人材の創出、ひいては臨床研究に関与する人の数不足の解消につながる。

@の取り組みとして、本学では、臨床研究支援センターが、非科学的な臨床研究は非倫理的であることを念頭に置き、臨床研究の事前相談や倫理審査委員会の申請書類の事前点検や、講習会、研修会、ワークショップなどを行っている。

Aの取り組みとしては、学部生を対象に医療統計学教室を筆頭に講義および実習を行っている。また、大学院を対象として、臨床研究学や生物統計学といった講義・実習を開始し、それぞれ、研究者や生物統計家の創出を図っている。

臨床研究における生物統計家に注目すると、それは、「臨床研究そのものの専門家(metholdologist、trialist)」であり、臨床的仮説、デザイン、データ収集、データ解析、結果の解釈を一連の過程として捉え、その質をより良い方向に保つ方法論を提示する専門家である。生物統計家は、決してそれらを個々の断片として扱うものではないことを強調したい。また、生物統計家たるに必要なものは、例えば、日本計量生物学会の『統計家の行動基準』に見ることができる。そこでは、プロフェッショナリズムを有する、人権を尊重する、不正行為を予防することなどが謳われている。

一昔前では生物統計家はどこにいるか分からない、幻のような存在であったが、現在、アカデミアに所属する生物統計家は100名ほどいるのではないかと思われる。とくに、高血圧症治療薬臨床研究事案を受けて、ここ数年の間に、生物/医療/医学統計学といった名称の講座や教室をもつ大学の医学部は、国公立および私立ともに増加傾向にある。また、大学だけではなく、臨床研究中核病院の承認要件として生物統計家を2名以上が掲げられ、臨床研究実施機関における生物統計家の数もおそらく増加傾向にあると思われる。

このように生物統計家の必要性が再認識されたいま意識すべき点は、生物統計家の質の保証であると考える。先の「臨床研究に係る制度の在り方に関する報告書」(厚生労働省)を受けて、現在、日本計量生物学会では試験統計家の認定制度の検討を開始している。

臨床研究の質の管理・保証・向上については人材の育成と創出が重要であるが、私の少ない経験上、大学でできること限られるため産官学のネットワークを通じて取り組むことが必要であろう。

パネルディスカッション

パネルディスカッションのようす パネルディスカッションでは、近藤座長から全パネリストに対し、臨床研究中核病院がスタートするにあたってのアイデアや、高血圧症治療薬問題を受けての倫理や責任感の醸成、製薬企業への献金および資金調達、そして米国主導で推進されているPrecision medicineなどに関する意見やアイデア提示が求められた。パネリストからはそれぞれの立場から意見が出され、医師主導の臨床研究に対する期待が大きい一方で、体制整備や人材の課題などをどのように克服していくか、闊達な意見交換がなされた。

臨床研究が元気にならないと、日本の医学も元気にならない。そのために臨床研究中核病院の存在は今後ますます大きなものになるだろう。各界のアクティビティに期待したい、との座長の言葉により、医研シンポジウム2015は盛況のうちに閉会した。