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シンポジウム

医研シンポジウム2021認知症予防の最前線−認知症の一次、二次、三次予防の重要性−
 

シンポジウムのようす  高齢化の進展に伴い、認知症を発症する人が急速に増えていくことが見込まれており、高齢者や家族にとって大きな不安の一つとなっています。社会をあげて認知症への対応が求められています。2019年6月に政府がとりまとめた「認知症施策推進大綱」では、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していくこととされています。いずれも重要な取り組みですが、今回の医研シンポジウムでは掘り下げた議論を期すために、「医療科学」的見地から「予防」の重要性に焦点を当てることとし、それぞれの第一人者のパネリストの先生方にお集まりいただきました。
 今回のシンポジウムは、新型コロナウイルス対策として、会場とWeb配信の同時開催とし、座席数を減らした会場には約40名、Web配信には約320名の方にご参加いただきました。また、当日の模様を収めた動画を、医療科学研究所ホームページに10月28日より12月27日まで公開しています。
 動画配信はこちらから

事務局編集による座長基調講演および各パネリスト講演の抄録は次の通りです。

※講演録は、機関誌『医療と社会』(Vol.31,No.4 2022年1月発行)に掲載予定です。

開催概要

日 時
2021年10月8日(金)13:30〜17:00
(会場・オンライン同時開催)
主 催
公益財団法人医療科学研究所
後 援
厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人医療科学研究所理事長 江利川 毅
来賓挨拶 厚生労働省老健局長 土生 栄二
座長基調講演 認知症予防財団会長/日本老年精神医学会前理事長/
順天堂大学医学部名誉教授/アルツクリニック東京院長
新井 平伊
講演 九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授/
九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター教授
(兼任)
二宮 利治
国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター
センター長
島田 裕之
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野教授/国立精神・神経医療研究センター神経研究所所長 岩坪 威
東京都健康長寿医療センター研究所副所長 粟田 主一
国立長寿医療研究センター理事長 荒井 秀典
パネルディスカッション
閉会挨拶 公益財団法人医療科学研究所専務理事 松江 裕二

(敬称略)

座長基調講演

新井 平伊氏の写真

なぜ、予防が注目されているのか?

認知症予防財団会長
日本老年精神医学会前理事長
順天堂大学医学部名誉教授
アルツクリニック東京院長
新井 平伊

 まず最近の重要な話題について。認知症のうち、アルツハイマー病は約7割を占め、それ以外に、血管性認知症、レビー小体型認知症などがある。2020年11月、米バイデン大統領が勝利宣言を行ったとき、克服する疾病として「がん」よりも先に「アルツハイマー病」を挙げたことが印象的だった。それはアルツハイマー病が社会的・経済的に大きな問題となっていることを世界に示したものだ。また、2021年6月、米国と日本の製薬会社が共同開発したアデュカヌマブという薬がFDAに承認されたことは、大きなエポックメイキングであった。日本では、2019年に認知症施策推進大綱が発表された。ここには『「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進』という基本的な考え方があり、本日のシンポジウムのテーマともつながっている。

 予防は、一次予防→発生させない、二次予防→発症を遅らせる、三次予防→進行を遅らせる、という段階に大別できる。今の医学では一次予防できる病気というのはあまりないが、最終的には一次予防を目指している。

 「なぜ、予防が注目されているのか?」についてのポイントは、①危険因子が分かってきた、②前段階が分かってきた、③(①と②により)発症前での予防ができるのではないか、ということにある。

 危険因子については、有名なLancetの論文が、老年期における聴力障害、中年期における喫煙といったもろもろの因子を指摘している。WHOでも12項目の危険因子と予防のための重要なポイントを発表している。予防のためには発症する前段階、すなわちMCI(軽度認知障害)が重要。これは、物忘れはあるものの、日常生活は普通にでき、全般的な認知機能は正常で、いわゆる「ど忘れ」と「認知症」の中間の段階と言える。従来は「健康」と「認知症」の2分法だったが、現在は、MCI(Mild Cognitive Impairment)、さらにその前段階としてSCD(Subjective Cognitive Decline:主観的認知機能低下)、つまり、自分だけが物忘れを感じるが生活や仕事には支障をきたさない状態を含む4分法に細分化されており、世界的にこのSCDが注目されている。

 アルツハイマー病の研究は、1900年代から大きく進んでいる。発症の20〜25年前からAβ(アミロイドベータ)蛋白が溜まりはじめ、その後、タウ蛋白も溜まることで神経突起変性が生じ、アセチルコリン等の伝達物質の低下や脳の萎縮を招くことが分かっている。現在の薬は症状改善薬であり、Symptomatic therapy(対症療法)となるが、アデュカヌマブは、Disease modifying drugs(疾患修飾薬)。より上流の、神経細胞の変性に関わる部分に介入する次世代の薬だ。今後、より多くの薬が開発されると、MCIやSCDの段階で効果を発揮することになるだろう。MRIでは、脳の萎縮が明らかになるまでの前段階は見つけにくい。そこで、アミロイドPET検査(現在は自由診療)が必要となる。また、血液や脳脊髄液による代替マーカーがどの程度使えるかも課題となるだろう。

 アルツハイマー病の段階は、軽度、中度、重度(高度障害)に分けられる。多くの実臨床の場で診断を受けるのは、軽度の後半になってからが多いと言われるが、そこでは遅いと指摘したい。MCIやSCDで様々な予防活動を行うことにより、データ上では年間16〜41%が回復することが認められるようになってきた。従って、MCI、SCDの前段階をいかに重視するかが予防のポイントとなる。

 健常者〜SCD〜MCIの段階が一次・二次予防、発症して軽度〜中度〜重度の段階が三次予防と区分できる。予防が重要なのは間違いないが、発症の原因は「予防をしていなかったから」では決してない。一次予防は完全にできるわけではないし、二次予防ができたとしても今の医学では発症を止めることはできない。「予防をサボったから発症した」というようなことが普及しないよう努めるのも我々医療者の共通認識でありたいと思う。

 先日、NHKの番組「みみより!くらし解説」の中で、具体的な予防法を取り上げていただいたので少し紹介する。糖尿病などの生活習慣病、酒・たばこ、睡眠、運動、対人ゲームなどを通常の生活に積極的に取り入れていくのが重要だ。実際、私のクリニックでも、薬以外に、生活リズムの改善などでMCIが改善した例が多数ある。

 最後に、若年性アルツハイマー病の方からいただいた手紙を紹介する。

 「健康であり、友人があり、生き甲斐を持ち、元気が続く、楽しむ人生」

 認知症になったら幸福になれないのか? 認知症にならなければ幸福になれるのか? そんな疑問がわいてくる。認知症の臨床を通して患者さんとご家族に教わることがある。包括的支援がうまくいくと、患者と家族は人生をまっとうし、がんばろうという姿を見せてくれる。そして彼らは、人と人とのふれあい、例えば会社の同僚のちょっとしたやさしさから多くの幸せを感じ取る。こうしたことから私たちが目指すべき社会は、「幸福」の獲得ではなく、「幸福感」をみんなで共有できるような社会、病気があってもなくても、幸福感が得られるような社会をいかにしてみんなでつくっていくかが大切と分かる。病気になってからの三次予防ももちろん大事だが、一次・二次予防を地域で、また国を挙げて実施していくなかで、少しでもそんな社会が実現できるような動きになればと思いながら、日々の臨床を行っているところだ。

講演1

二宮 利治氏の写真

地域住民における認知症コホート研究:久山町研究

九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授
九州大学大学院医学研究院附属総合コホートセンター教授(兼任)
二宮 利治

 福岡県糟屋郡久山町におけるコホート研究のうち、特に認知症と生活習慣病の関係についてお話しする。久山町は以前より町の97%を市街化調整地域に指定している。そのため、ベッドタウン化する福岡市周辺地域にもかかわらず、豊かな自然を保ち、人々の急激な人口増加が抑制されることにより、日本の平均的な人口構成を保っている(高齢化率28.7%)。今からちょうど60年前となる1961年から心血管病、脳卒中の疫学調査が開始され、現在約1万人の健康情報を継続的に収集している。認知症の疫学調査は1985年から始まり、地域の65歳以上の全住民の認知機能調査を6〜7年おきに行っている。認知症の患者さんはなかなか健診に来ていただけない。特に認知機能が低下しはじめた方ほどその傾向があるため、訪問調査も行っている。これら調査から認知症が増加していることが分かった。1985〜98年は7%前後(65歳以上の12〜13人に1人)だったが、2012年には18%(同5.5人に1人)と急増。この30年で増えてきたのは、血管性認知症ではなく、アルツハイマー型認知症であった。

 わが国における認知症患者数の将来推計を行ったところ、糖尿病等の危険因子が今後も増え続けた場合、2050年には日本人全体の約10人に1人が認知症となる恐れがある。アルツハイマー型認知症が発症するのは80〜85歳だが、その数年前からβアミロイドの沈着や神経変異は始まるため、実際に脳の変化が始まるのは50〜60歳代と考えられる。認知症を意識するのは早ければ早いほうがいい。

 久山町研究では「前向きコホート研究」のスタイルをとっている。これは、ある時点において対象者を設定し、一定期間追跡して疾病発症情報を調べ、曝露と疾病との因果関係を調べるもの。例えば高血圧のある群とない群でそれぞれの発症状況を調べ、高血圧があった場合の認知症の発症しやすさを相対危険度(リスク)として割り出すものだ。

 認知症と高血圧の関係では、老年期ではなく、中年期血圧の影響が大きいと言われる。そこで、1988年に認知症を有していない65〜79歳の住民668名を17年間追跡した。この住民が15年前(中年期)に受けた健診データから、中年期血圧と老年期血圧の関係について考察した。その結果、アルツハイマー型認知症の場合は血圧との有意な関連は見られなかったが、血圧の上昇に伴い血管性認知症の発症リスクは有意に増加することが分かった。より長く高血圧にさらされているほど、血管の障害が大きくなり、血管性認知症を発症しやすくなると考えられる。同様に、喫煙習慣についても検討したところ、中年期〜老年期と喫煙習慣がある方は、喫煙しない方に比べ、血管性認知症で2.8倍、アルツハイマー型認知症で2倍ほどリスクが上昇することが分かった。

 血圧が管理されるようになり、喫煙率も低下しているにも関わらず、認知症が増えているのはなぜか。1998年に認知症がなかった65歳以上の方を10年間追跡したデータと、2002年の同様の方を10年間追跡したデータとで、認知症の発症率を比較した。その結果、85歳以上では変化は見られなかったが、75〜79歳、80〜84歳の群では、2002年コホートのほうが明らかに認知症発症率が増えていた。さらに興味深いことには、追跡調査開始時の糖尿病有病率を比較すると、やはり65〜84歳の有病率が高かった。そこで、糖尿病と認知症に関連があるのではないかと検討したところ、糖尿病のある方はない方に比べ、アルツハイマー型認知症で2.1倍、血管性認知症でも1.8倍、発症リスクが高いことが分かった。

 さらに、糖尿病罹病期間と海馬容積の関係を脳画像で検討したところ、糖尿病のない方に比べ、罹病期間が長いほど海馬の容積は小さいことが分かった。また、老年期に糖尿病になった方と中年期に糖尿病になった方では、後者のほうが海馬容積が小さいことも分かった。血糖の変動が認知症のリスクを高めるのではないかと考え、GA/HbA1cレベル別に認知症の発症リスクを検討した。するとレベルの高い人ほどアルツハイマー型認知症の発症リスクが上がってくることが分かったので、血糖の変動が大きい食生活を送っている方はリスクが高い可能性があると考えられる。

 予防のために運動習慣は大切な要素だ。久山町でも、週1回でも運動している方は、運動していない方に比べ、全認知症で約20%、アルツハイマー型認知症で約40%リスクが低くなることが分かった。なぜ運動が認知症の予防に効果があるかについてだが、筋力がある人は外に出て行って社会とつながる力を持っていることもあるだろう。握力の低い方は高い方に比べ、老年期で1.66倍、認知症の発症リスクが高かった。また、中年期から老年期にかけて握力が15%以上下がった方は、発症リスクが1.51倍高いことも分かった。

 こうしたことから、中年期から老年期にかけてのサルコペニアの予防が非常に重要であろうと考える。まず運動が大事。そして食事、特に蛋白質の摂取が大事だ。糖尿病などの基礎疾患があると蛋白が分解されるので、基礎疾患の予防や適切な管理がサルコペニアの予防につながる。健康長寿を妨いでいるのはフレイルサイクルだ。そのベースにあるのは、低栄養、運動不足、併存症の管理不良で、これがサルコペニアを招く。そうなると、運動量や活動量の低下、引きこもり、抑うつ状態を招きやすく、認知機能も低下する。するとますます食事量や活動量が低下する。通院や服薬状況もわるくなる。以上のことから、中年期から老年期にかけての筋肉量の維持、食事(特に蛋白質)の摂取、危険因子の管理が重要と考える。

 最近、私たちが取り組んでいるのは、通常健診レベルで使える認知症発症予測のリスクスコアの作成だ。年齢、性別、教育歴、高血圧、糖尿病、BMI、脳卒中の既往、現在の喫煙習慣、日中の低活動(ほとんど座っている)といった危険因子を掲示することで、なるべく早い時期から意識してもらうことを意図している。久山町では、健康長寿および介護予防を妨げる3大疾患として、生活習慣病(特に糖尿病)、認知症、サルコペニアを掲げ、活動を率先している。

講演2

島田 裕之氏の写真

地域における認知症予防

国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター センター長
島田 裕之

 WHO認知症予防ガイドラインでも挙げられているとおり、認知症予防あるいは認知機能の低下抑制のためにやるべきことはだいぶ分かってきたと言える。運動習慣、禁煙、バランスのよい食習慣、不適切な飲酒の防止、認知トレーニング、社会交流、体重管理、糖尿病の管理、脂質異常症の管理、うつ病の予防、難聴の管理などの課題が挙げられているが、これらについては具体的な対策が可能である。しかし、生活習慣の改善や様々なリスクの管理は、それほど画期的な予防対策とは言えないだろう。おそらく誰しもが分かっていることで、しかしながら、分かっていてもなかなかできないというのが実情だ。やっていただけるような体制をいかにして構築するかが求められている。

 糖尿病、中年期の高血圧、中年期の肥満、うつ、身体的不活動、喫煙といったアルツハイマー病の危険因子のうち、身体的不活動が人口あたりの影響力でみるともっとも大きなインパクトを持つという米国の論文がある。地域あるいは国で何か代表的な課題を取り上げていこうと考えたとき、高齢者の運動不足の解消から手をつけていくべきだろうということ示唆する研究と言える。確かに、週3回程度の汗ばむ程度の運動習慣を持っている方は、認知症発症リスクが明らかに低いことが分かっている。なぜ運動が認知症の発症に有効性を持っているのか。様々なメカニズムが想定できるが、例えば運動をすれば高血圧も適正化するし、インスリンの抵抗性も改善する。また、脳の成長因子の増加、脳の細胞構築の強化といったエビデンスもある。アルツハイマー病の観点では、アミロイド蓄積のクリアランスが増すような知見もある。中でも栄養因子については様々な研究が行われており、例えば、運動することでFNDC5という膜蛋白が合成され、海馬におけるBDNF(脳の栄養因子)の発生に寄与し、認知症の発生に対して抑制的に働くのではないかというモデルがある。また、高齢者で、ウォーキングで筋肉を動かす群と、ストレッチ運動を行う(筋肉を動かさない)群とを解析した結果、1年後、前者は2%ほど海馬の容量が増し、後者は逆に2%ほど減少した。海馬は脆弱な部位なので、高齢者では年間1〜2%萎縮するのはふつうなので減るのは自然だが、運動群ではそれを回避することができた。BDNFの発現にはどうもコツがあるようで、一頭のマウスの単純な滑車運動と、複数のマウスが様々な遊び道具で学習しながら(結果として)運動するモデルを比較すると、後者のリッチな環境ではBDNFの過剰な発生が認められた。認知症の観点からすると、ただ黙々と走るよりも、みんなでわいわいと頭も使いながら楽しむ運動習慣を身につけることのほうが効果的なのではないかと考える。

 そこで、国立長寿医療研究センターでは、単純な運動だけでなく、計算など頭を使いながら運動をするコグニサイズを開発し、実施している。MCIの方を対象に10か月間、コグニサイズをしていただいた結果、介入群ではMMSE(全般的な認知機能検査)の低下抑制効果が認められた。介入群は論理的な記憶の検査でも向上、言語の検査でも改善、脳の萎縮も抑制できることが分かった。いま言えることは、きちんと運動習慣を身につけていただければ認知機能の保持・向上は可能だし、一時期かも知れないが脳の萎縮も止めることができそうだ。運動以外にも潜在的に有効な活動は多数あり、読書、楽器演奏、対人ゲーム、ダンスなどを習慣的に行う方は認知症発症のリスクが低いことは古くから知られている。ただし介入研究がなかったため、社交ダンス、打楽器の演奏でRCTを行ったところ、論理的な記憶の改善、MMSEの低下抑制が認められた。スポーツの中では、特にゴルフが認知症抑制にとってパーフェクトな課題と言える。ラウンドすれば1万歩ほどは歩くし、みんなで行えば社交もとれる、コースの戦略やスコアのカウントなどで記憶も活性化される。ゴルフ初心者に6か月間介入研究を行ったところ、やはり論理的記憶の改善効果が得られた。体操教室などでは15〜20%ほどが途中脱落するものだが、ゴルフの介入研究は1人も脱落することなく、継続のためには課題の持つ魅力が大事であることを考えさせられた。各種活動をメタ解析した結果、認知、身体、社会活動のいずれにおいても認知機能に対して有効な効果が得られた。身体活動がもっとも高い効果を持っていたが、それ以外の活動も同等の効果が認められたので、運動が好きな方は運動、その他の活動がよければそれらを行っていただければいいと思う。しかしながら、上述の活動の改善効果量はそれほど大きなものではない。効果を最大化するためには、よいとされる様々な活動を多面的に行っていく必要がある。これが現在の認知症予防の主流とされるところだ。

 私が今回、特にお話したかったのは、やるべきことは分かっているので、それを一人でも多くの方に実際にやっていただくことだ。実施については、①関心を持つ、②始めてみる、③本格的に開始、④活動の維持、という4つのステージがあり、それぞれのステージでやるべきことがある。①では、自分事として認識し、危機感を持つことが最重要課題。②では、手軽に行えて、安価で、楽しいサービスを提供すること。④で大事なのは、仲間づくり、地域でのリーダーづくりが大きな課題となる。

 まったく自覚症状がなくても、Rey複雑図形の検査(視覚的記憶検査)を行って初めて自身の認知機能の衰えに気づく方も少なくない。認知機能の低下を自分事として知っていただく機会を広く与えることが重要であるため、我々は「脳とからだの健康チェック」という、脳の機能の状態を1〜5の5段階(1がMCI相当)で分かるツールを用いた検査を開始した。まずはこうした検査を受けてもらいたいと考えている。何か始めようという段階では手軽にできることが重要。そこで、国立長寿医療研究センターではスマホ研究を推進している。スマホのアプリを活用して様々な活動を促進し、認知症予防や介護予防を図っていこうというもの。それと同時に、コロナ禍でもできる屋外活動としてウォーキング教室を組み合わせた介入研究を進めている。地域でのリーダーづくりに関しては、県単位での研修などを行い普及啓発に努めている。

 まとめ。地域で認知症予防のためにすべきことは明らかになった。特に活動的な生活習慣を身につけることが重要。研究知見を社会実装するためには、認知機能健診、ICT活用、人材育成が必要である。

講演3

岩坪 威氏の写真

アルツハイマー病疾患修飾薬の現状とプレクリニカル期における二次予防介入に向けての治験即応コホート構築

東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野教授
国立精神・神経医療研究センター神経研究所所長
岩坪 威

 認知症施策推進大綱(2019年)では、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進することがうたわれており、『「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味』と明記されている。日本学術会議の提言でも予防は重視されている。また、認知症基本法の成立に向けた努力も続いている。

 アルツハイマー病では、2種類の異常なタンパク質が蓄積し、脳の神経細胞の死につながることが知られている。老人斑はアミロイドβ(Aβ)からなり、2種類の分解酵素(セクレターゼ)によって切り出されるが、除去を免れるとアミロイド線維になって神経細胞の外に溜まる。また、神経原線維変化はタウ蛋白が異常な線維になって神経細胞に溜まる。Aβがアルツハイマー病の原因となることはほぼ確実と考えてよい。タウの凝集は神経細胞死の原因となり、認知機能低下につながる。従って、Aβとタウは、予防・治療の標的分子となると考えてよいだろう。

 アルツハイマー病治療薬は、これまでアリセプトをはじめ症候改善薬4薬のみが上市している状況。メカニズムに働く疾患修飾薬は百数十の治験が不成功に終わっている。そんななか、アデュカヌマブ、ドナネマブ、レカネマブの3薬に注目すべき臨床結果が出ている。

 疾患修飾薬は認知症の症状が発症してからではなく、MCIを含む早期AD期で認知機能に対する効果が見られている。Aβに介入するのであれば、認知症になってからよりも、早期AD期、あるいは症状のないプレクリニカルAD期などで介入するのが有効なのは明らかと思われる。予防・治療薬の効果の評価には、PETやバイオマーカーを駆使して早期での変化を精密に計ることが必要。これを実現したのが、米国で始まったADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)という研究だ。我が国のJ-ADNI研究では、MCI期の認知機能変化は米国でも日本でも同等で、人種を超えて非常に似た経過をたどることが分かった。アミロイドPETによる調査では、MCIの2/3にアルツハイマー病変が認められたが、一方で1/3は別の疾患であり、臨床症状だけでは早期ほど正確な診断が難しいと言える。J-ADNIによりアミロイドPET検査体制が確立したことで、アデュカヌマブなど修飾疾患薬のグローバル治験も日本で可能になった。

 抗アミロイドβ抗体療法の原理について、Aβに対する抗体を血液中に投与すると、0.1%は脳に入っていく。これが貪食細胞(ミクログリア)を刺激してアミロイドの除去を促す。これがアデュカヌマブをはじめとする抗体の作用メカニズムだ。溶けているAβに結合して凝集を抑制するソラネズマブなどのバリエーションもあるが、こちらは医薬として十分な効果はまだ得られていない。

 2019年3月21日に国内外から多くの専門家が集まって東大ADラウンドテーブル会議が開催され、アルツハイマー病の予防・治療について議論されていた当日の深夜、アデュカヌマブの第3相臨床試験の中止が発表された。その後、全データの解析によりEMERGEで有効性が認められ、2020年8月にFDAに申請された。諮問委員会は否定的見解を示したが、さらなるデータの解析により、2021年6月7日にFDAが迅速承認を与えるという経緯があった。第3相試験においてアデュカヌマブは、アミロイドPETではEMERGEでもENGAGEでも相当程度のアミロイド減少が認められた。また、髄液リン酸化タウも低下、タウPETでも改善が認められた。この試験の結果からは、アミロイド・タウPETイメージングが臨床効果を代替可能なサロゲートマーカーとなり得る可能性も浮上した。なお、FDAはアデュカヌマブについて、代理エンドポイントを考慮し迅速承認を適用した一方で、承認後にも臨床有用性実証のためにランダム化治験の追加を要求している。

 ドナネマブは、脳に蓄積したAβのみに生じる変化(ピログルタミル化)を認識するモノクローナル抗体。第二相試験で早期AD期における臨床機能低下の進行を32%抑制する効果が認められ、現在、第三相試験が進行している。PETによりアミロイド蓄積の高い抑制に加えて、タウ蓄積の抑制効果も認められている。アミロイドが正常レベルに戻った後は投与を中止しても効果が続くことが予想され始めている。ドナネマブまた、プレクリニカルADに対しても予防治験を展開すると公表されている。

 アデュカヌマブを含む新規抗体医薬治験の成功要因は、①MCIを含む早期段階の被験者を対象としたこと、②アミロイドPETの実用化により、25%ほど存在するアルツハイマー病ではない被験者を効率的に除外できたこと、③ARIA-Eなどの副作用を見極め、有効性を発揮するのに必要な高用量の適用が可能になったことが考えられる。脳に蓄積したアミロイドそのものを除去することが、ある病期までは神経細胞死、認知機能低下の抑制に有効であると考えるべきか、今後の議論が期待される。

 次の目標はMCIよりも早期の、プレクリニカルADに対する二次予防薬剤介入だ。アミロイド陽性の人も無症状では募集が困難なため、治験即応コホート「J-TRC」を開始している。様々な方に呼びかけ、まずはインターネットを介してウェブ上でできる認知機能検査や情報収集を行い、参加者の中から採血やアミロイドPETを行う群を募集。アミロイドが上昇している方を組み入れ、希望者は治療薬治験に導くという効率的なシステムである。

 今後のアルツハイマー病予防・治療の方向性と課題について。

 認知症症状の完成後は抗アミロイド薬の至適な対象時期ではないと考えざるを得ないため、より早期がターゲットとなる。中等度認知症期以降に有効な治療法(薬剤による三次予防に相当)の開発も重要である。アデュカヌマブは、最適な対象となる患者に対して適正に使用し、医療経済的課題も克服してゆくことが要される。適正な対象となる患者の診断には、アミロイドPETやバイオマーカーが必須となる。循環器疾患では、高血圧、コレステロールを健康時からコントロールすることで動脈硬化を防ぎ、vascular eventを予防する二次予防が定着しているが、これと同様に、アミロイドなどの因子を抑えて認知症発症を防止する「高リスク・無症候者に対する二次予防=超早期治療」の実現は、もう目の前にあるものと考えている。

講演4

粟田 主一氏の写真

認知症の三次予防
認知症になってからも希望と尊厳をもって暮らせる社会を創ろう!

東京都健康長寿医療センター研究所副所長
粟田 主一

 三次予防の「進行を遅らせる」という考え方を理解するためには、そもそも認知症とは何かということへの理解が必要と考える。認知症の一般的特性は、①脳の病的変化、②認知機能の低下、③生活障害、と言えるが、この3つの要素がそろうと、精神的健康問題、身体的健康問題が生じ、先の3要素と複雑に関係し合いながら、様々な社会的生活課題が現れる傾向がある。これが認知症の特徴「複雑化の傾向」だ。認知機能の悪化だけでなく、いかにこの複雑化の問題が関係しているかを考慮しなければならない。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、認知症に伴って現れる行動の変化や精神症状のことで、具体的には、うつ、不安、妄想、幻覚などがあり、先の精神的健康問題に当たる。BPSDの予防や改善にあたっては、複雑化に関連するすべての問題を考えていかなくてはいけない。厚生労働省が述べる「地域共生社会を提案する背景」は、今日の話と深く関係しているのでご一読いただきたい。

 高齢者における認知症の年齢階級別有病率を見ると、85歳を過ぎると40〜80%と有病率が非常に高くなることが分かる。将来推計では、2060年以降は認知症高齢者の70%以上が85歳以上の高齢者で占められることになる。85歳以上の認知症高齢者は独居の割合が非常に高いが、将来的には、特に女性の独居認知症高齢者が大変な勢いで増えていくことが予想される。

 彼らが地域の中でどのように暮らしているかを考えないといけない。東京都健康長寿医療センター研究所では、独居高齢者が多い板橋区の高島平で調査を行った。70歳以上の高齢者7,614名(悉皆)を対象に、①郵送によるアンケート調査、②会場または訪問による健康診断、ここで認知機能が低下していると判断された方については、③医学的評価と認知症アセスメント、という3段階の調査を行った。その結果、認知機能が低下すると次のようなことが増えることが分かった。日常生活機能については、買い物に支障、交通機関の利用に支障、金銭管理に支障、電話の使用に支障、食事の準備に支障、服薬管理に支障、身体的状況については、主観的聴力の低下、主観的視力の低下、自力歩行の障害、糖尿病の既往、脳卒中の既往、血液・免疫疾患の既往、パーキンソン病の既往、耳鼻科疾患の既往、ブクブクうがいができない、かかりつけ歯科医がいない、過去1年間歯科受診していない、精神的状況については、うつ病の既往、社会的状況については、外出が週1回未満、友人との交流が月1回未満、家族との交流が月1回未満、社会活動に参加していない、年収100万円未満。「ブクブクうがい」という項目があるが、口腔機能が低下している方は、2年後に栄養状態が2倍以上わるくなるという調査結果もある。

 この調査では78名が認知症であることが分かった。このうち43%は認知症と診断されていたが、「認知症疾患」が診断されている方は30%、独居者では20%。つまり一人暮らしの高齢者の8割はきちんと診断されていないことになる。必要とされる社会的支援ニーズに関する調査では、認知症疾患等の医学的診断、生活支援、家族支援、介護保険サービスの利用支援などは4割以上の方は確保できていないことが分かった。また、認知機能低下高齢者198名のうち、3割の方は、死亡、入院、施設入所などにより、3年後にはこの地域に住んでいなかった。居住支援のニーズ、権利擁護の支援ニーズが充足されていない方は、特に生活が続けられない傾向があった。

 生活実態調査のまとめ。①認知機能低下は、日常生活機能の低下とともに、身体的・精神的健康状態の悪化、社会的孤立、経済的困窮と密接に関連している。②認知機能低下は、身体機能低下、口腔機能低下、低栄養と関連しており、独居であることは低栄養のリスクをさらに高めるようである。③認知機能低下は多剤併用と関連する。④認知症高齢者のうち、認知症疾患が診断されているのは3割程度。独居である場合はさらにその割合が低下する。⑤複合的支援ニーズが存在するにも関わらず、必要な支援にアクセスできていない認知症高齢者が多い。⑥社会的支援ニーズの不充足(アンメットニーズ)は、認知機能低下高齢者の地域生活中断の要因になる。

 冒頭に説明した複雑化のプロセスは、認知症の初期段階から始まっているが、中でも社会的孤立は重要なキーワードだ。社会的孤立とは、個人に対して社会的支援の提供を可能とするネットワークが欠如していることを意味している。わが国には、認知症の保健・医療・介護サービスを提供するシステムが構築されているが、それにも関わらずアンメットニーズの状態に高齢者が多い。それは、これらのシステムには、本人の視点に立って生活の継続に必要な社会的支援を調整するコーディネーション機能はあるものの、多くの方がそのシステムにたどり着けていないからであろう。また、仮にたどり着けたとしても、そのサービスの継続的利用を可能する社会環境がないためであろう。つまり、必要な社会的支援の利用・提供を可能とする地域社会の構造(ネットワーク)が存在しない。このような構造をつくりだすためには、ネットワークづくりのための地域拠点が必要である。それは、現場では古くから実践されてきたことである。そこには、@居場所としての機能が必要。認知や障害の有無にかかわらず、誰もが居心地よく自由に過ごせる地域の居場所であること。そして、②相談に応需できる機能が必要。定年退職した経験のある専門職や認知症サポート医などの協力を得て、多様な生活課題をもって暮らす人が気軽に相談できること。地域包括支援センターとも強いパイプでつながり、必要に応じて適切な社会資源につながることができること。さらに、③差別や偏見を解消し、社会参加を促進する機能が必要。認知症であろうがなかろうが共に学び、活動し、楽しむことができるようにすることが大事だ。④生活支援の担い手を育成する機能、地域の連携を推進する機能も必要。そして、⑤認知症とともに生きる本人の参画を促進する機能が大切だ。「高島平ココからステーション」では、本人ミーティングを行っている。これは、認知症の方が主体的に集まり、本人同士が主になって、自らの体験や希望、必要としていることを語り合いながら、自分たちのこれからのよりよい暮らし、暮らしやすい地域の在り方などを考えていくものだ。周知をすれば人は集まる。ただし継続的に行うことが大事だ。

 東京都健康長寿医療センター研究所では、事例を蓄積するなかで、日々の課題にぶつかりながらも豊かに暮らしていけることを可視化する作業に取り組んでいる。認知症とともに暮らせる社会に向けた手引きを作成しているので活用されたい。

東京都健康長寿医療センター研究所で作成
▼地域づくりの手引き 2020年度改訂版(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/pdf/chiiki_tebiki.pdf

▼コーディネーションとネットワーキングの手引き(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/jigyou/caremodel/pdf/tebiki.pdf

講演5

荒井 秀典氏の写真

認知症予防を目指した多因子介入ランダム化比較試験(J-MINT研究)と社会実装に向けた展望

国立長寿医療研究センター理事長
荒井 秀典

 国立長寿医療研究センターは、認知症と老化研究、特にフレイル(虚弱)という病態を中心に学際的な研究を行っている。ほぼすべての研究者が認知症と老化の2つの方向を見据えており、医療だけでなく介護にもアドレスしている点は特筆できるだろう。当センターでは当然、認知症の1次〜3次予防を取り扱っている。発症前の予防から、地域との連携、人生を支える、さらには新しい診断基準や治療法まで、あらゆる試みを行っている。

 認知機能と身体機能の関係について。認知症にならないためには体を鍛えておく必要がある。フレイルは様々なアウトカムと関連しており、要介護状態、認知症、施設入所などのリスクが高まることから、フレイル予防がまず優先されるべきと考える。フレイルになると身体活動が低下して認知機能が衰えやすくなるし、認知機能が低下すると身体機能が衰えて生活範囲が狭まり、さらにフレイルが進行するというメカニズムが考えられる。実際、フレイルになると全認知症、アルツハイマー病、血管性認知症のいずれでもリスクが高くなることが報告されている。認知機能と身体機能には、栄養や社会的要因が交絡している。認知機能の低下とともにサルコペニアが合併しやすくなり、同時にフレイルにもなりやすい。歩行速度や握力のレベルが低い人は、そうでない人に比べて明らかに認知機能の低下が早いことも分かっている。

 身体機能を低下させないためには運動が重要。運動はもちろん筋力を向上させる効果があるが、同時に骨折や転倒の予防、うつ症状や認知機能の改善効果も認められる。運動をすると筋肉からマイオカインが出てくることで脳を活性化することが分かっている。運動ができない人については、運動によらないマイオカインを介した脳の活性化について検討の余地があるだろう。運動とともに、栄養も極めて大事だ。DHA、短鎖脂肪酸・中鎖脂肪酸、豆類、乳製品、リジンやアラニンなどのアミノ酸の摂取が認知症のリスクを下げる可能性が、逆に穀類はリスクを高める可能性がある。ただ実際には、食品摂取の多様性のほうが重要で、バランスのよい食生活が認知症の予防につながるものと考えている。そして、そんな食生活ができていない高齢者が増えているのが課題であると我々は認識している。フレイル予防や認知症予防は、単に認知訓練をすればいいというわけではない。運動介入や栄養介入と同時に、社会参加、オーラルケア、ポリファーマシー対策も重要である。

 認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較試験「J-MINT研究」について。認知症では、改善可能な危険因子が同定されており、こうした危険因子に対して多因子介入を行うのが現在のトレンドである。多因子介入については、FINGER(フィンランド)、PreDIVA(オランダ)、MAPT(フランス)という3つの研究がある。ポジティブな結果が出たのはFINGERだけだが、MAPTでは、CAIDE認知症リスクスコアが高い対象者やアミロイド陽性の対象者で介入の有効性が示されている。FINGER研究は、栄養指導、運動指導、認知トレーニングに加え、代謝および血管性危険因子のマネジメントの4つの因子の介入により、認知機能の低下が抑制された。この研究では、CAIDEスコアが6ポイント以上、APOEε4保有者、アミロイドPET陽性の対象者、未治療の高血圧、糖尿病の方のほうが効果が得られやすい可能性が示された。FINGERは世界的なネットワークを構築しており、わが国はJ-MINTとして参加している。40か国以上が参加しているが、現在はCOVID-19の影響で、アメリカ、ドイツ、日本の3か国だけが介入を継続している。

 J-MINTは、多施設共同のオープンラベルRCTで、介入期間は18か月。選択基準は64〜85歳で、認知機能の低下がある方。ただ認知症ではない方で、ほとんどはMCI。主要評価項目は、認知機能のコンポジットスコア。多因子介入の効果を見るのが主な目的だが、メカニズムにも迫りたく、様々なバイオマーカーやゲノム解析、オミックス解析、脳画像解析も同時に行っている。さらには社会実装を見据えて、民間企業との共同研究も行っている。研究フローは、対象者をランダム化して介入群と対照群に分け、対照群には健康情報の提供と生活習慣病の管理を行っていただく。介入群には、運動指導、栄養指導、認知トレーニングを1年半行う。認知機能の他に、ライフスタイル、ADL、フレイル、食多様性、栄養状態、食欲、抑うつ傾向、転倒歴・転倒スコア、ソーシャルネットワーク、健康関連QOL、睡眠の質、社会参加などが評価の対象となっている。J-MINT研究は、当センターの全体統括のもと、国立長寿医療研究センター、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センターが参加している。介入プログラムについては、SOMPOホールディングスに統括協力をいただき、コナミスポーツクラブ(運動指導)、S0MPOヘルスサポート(栄養指導)、Posit社(認知トレーニング)に入っていただいて研究を行っている。

 運動指導は、週1回90分。有酸素運動や筋トレに加え、コグニサイズやグループミーティングも取り入れている。リストバンド型の活動量計でモニタリングも行っている。セルフモニタリングとホームエクササイズの宿題動画などを送付し、家庭でも続けられるよう工夫をしている。栄養指導は、管理栄養士や保健師などの健康相談員による面談(60分)と電話支援(10〜15分)を3クールで行っている。認知トレーニングは、タブレットの「Brain HQ」を3か月使用して3か月休むのを3回繰り返す。1回30分以上、週4日以上の使用を推奨している。

 2019年11月に登録開始した研究は、緊急事態宣言の影響で一時中断したものの、2020年7月から介入開始。同年12月に登録完了。介入は一部オンラインを活用するなど、コロナ対策をしっかり行いながら安全に施行している。オンライン介入については当初想定していなかったが、新しい方法になり得るだろう。

 J-MINT研究は、日本で初めても多因子介入の効果検証であるが、認知機能低下抑制の機序解明と社会実装を見据えた介入研究である点が特色と言える。社会実装については、神戸大学、横浜市立大学の統括のもと、J-MINT primeというすこしマイルドな介入研究も始めている。将来的には両者の統合解析を行う予定だ。

 認知症予防の社会実装についてはしっかりと模索しなくてはならない。ひとつのモデルとして、店舗型の建物の中に、市民が集えるような運動教室をつくり、大学や行政からボランティアを集い、適宜認知機能を評価しながら運動指導するような施設が考えられる。MCIや認知症になった場合は、その上の階で保険診療で介入を行う。このようなモデルをビジネスモデル化するのが大きな目標となっている。

 まとめ。身体機能と認知機能は関連する。認知機能低下予防のためには身体機能低下予防が重要。認知症予防を目指したJ-MINT研究が進行しており、健康長寿社会の実現に向けてはJ-MINTの社会実装が課題となる。

パネルディスカッション

パネルディスカッションのようす  パネルディスカッションでは、まず新井座長から、それぞれの演者にどんな予防活動を行っているか、点をつけたら何点かというアイスブレイク的な質問から始まりました。その後、認知症の原因と結果の関係を疫学研究としてどう解釈するか、介入研究やその社会実装の困難さ、人と人とのつながりや居場所づくりの重要性など、様々な課題に対して意見交換がなされました。会場からは二人ご質問がありました。一人は、地域社会のコーディネーションにたどりつけない状況について、もう二人は、文化やライフスタイルのちがいと危険因子の関連についてでした。

 最後に新井座長は、あらためて予防の重要性を訴え、早ければ早いほうがいいが、三次予防では社会的な居場所や様々なネットワークが重要で、それは認知症に限らず、超高齢化した地域社会においても言えることだとし、自助に先んじて共助・公助が大切であるとしめくくりました。