English お問い合わせ

シンポジウム

産官学シンポジウム 新興国、発展途上国における医薬品アクセス問題と企業進出
―何が問題・課題か―

シンポジウムのようす 日本の医療関連産業のグローバル展開は、先進国と言われる欧米諸国から、BRICSなどの発展途上国・新興国へとシフトしなければ成長はないと言われます。しかし、そこには大きな課題が立ちはだかっており、これを克服するべくさまざまな議論がなされています。
今回の「産官学シンポジウム」は、本テーマを第1回目として、各界より5名をお招きして、それぞれの活動の中から事例を織り交ぜての講演をいただきました。会場からの質問もいつも以上に多く、今後の展開への関心をもたれて会場を後にした方も多かったように自負します。
事務局編集による各講演内容の要約は、次の通りです。

講演録は、機関誌『医療と社会』(Vol.25 No.3 2015年11月発刊)に掲載しています。

開催概要

日 時
2015年5月23日(土)13:30〜17:00
会 場
全社協・灘尾ホール
東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階
主 催
公益財団法人 医療科学研究所
後 援
外務省 厚生労働省

プログラム

開会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 理事長 江利川 毅
座長趣旨説明 日本大学 薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所理事
白神 誠
講 演 内閣官房健康・医療戦略室 次長(兼)
厚生労働省 大臣 官房審議官
(医薬品等産業振興、国際医療展開担当)
飯田 圭哉
外務省 国際協力局 国際保健政策室長 山谷 裕幸
東京大学大学院 医学系研究科
国際保健学専攻 国際保健政策学教室 教授
渋谷 健司
武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー
コーポレート・コミュニケーションズ&パブリックアフェアーズ オフィサー
平手 晴彦
エーザイ株式会社代表執行役
グローバル・バリュー&アクセス、
医療政策、中国担当
土屋 裕
パネルディスカッション    
閉会挨拶 公益財団法人 医療科学研究所 専務理事 戸田 健二

(敬称略)

座長趣旨説明

白神 誠氏の写真

日本大学 薬学部 教授
公益財団法人 医療科学研究所 理事
白神 誠

今回の産官学シンポジウムは、結論を出すものではない。参加者の方々が、産・官・学の講演内容とディスカッションの中から、何らかのものをお持ち帰りになり、それぞれに解釈し、活動に取り入れていただくことを望む。
海外に、特に新興国に出て行かなければいけないとよく言われるが、はたしてそう簡単にいくのか。文化、習慣、コンプライアンス、価格など、さまざまな問題が想像できる。本テーマでの第1回目となるこのシンポジウムではそうした問題や課題を抽出し、それを医療科学研究所の活動の中で発展させ、来年のシンポジウムにつなげていきたいと考えている。

講演1

飯田 圭哉氏の写真

医薬品産業のグローバル展開と今後の課題

内閣官房健康・医療戦略室 次長(兼)
厚生労働省 大臣官房審議官
(医薬品等産業振興、国際医療展開担当)
飯田 圭哉

財政の健全化と経済の再生をどう両立するかがアベノミクスの重要な点。健康・医療もその成長戦略のひとつに位置づけられる。日本の医薬品産業は拡大してきたが、今後どうなっていくのかが論点となる。世界の販売額を見ると日本を含む先進国にはコストプレッシャーがある一方で、アジアは伸長している。日本の新薬の海外売上高比率は40%を超え、グローバル展開は進んでいると言えるが、それは米国が中心。それを今後どうしていくかがポイント。日本企業の研究開発力には大きなポテンシャルがある。

競争力をつけて経済成長するのに奇策がないなか、健康・医療戦略には3つの柱があると考える。ひとつは研究開発力をいかに高めるか。次に、研究開発したものをいかに早くマーケットに出せるか。これはPMDAをはじめ、早くから取り組みが進んでいて過去4年でドラッグラグはおよそ半分になっており、諸外国からも注目されている。そして最後は、どのように国際展開して外に売っていくのか。

国際化にあたっては、各国審査当局との関係、臨床試験データの受け入れ、GMP基準、知的財産権、関税、トレーサビリティなどの問題を克服する必要がある。製薬協では「アジア製薬団体連携会議(AAPC)」の開催などにより、サブミッションサイドのコーディネーションを進めている。また、厚生労働省ではブラジル保健省との規制・許認可に関する取り組みを行っている。今後はODAにおける継続的な技術・人材協力を推進し、途上国の医療の質向上と国内の経済成長を図っていく。

新薬およびジェネリックには、需要、価格、販売・流通におけるさまざまなビジネスモデルが存在する。それぞれ企業のリソースに合わせ、プロフィットを創出していくことが重要。ただし、時間はあまりない。2020年代には国内の高齢者数の増加率も低下してくる。この5年程がひとつの節目となり、その間にいかに海外でのマーケットを拡大するかがポイントとなるだろう。

講演2

山谷 裕幸氏の写真

保健課題をめぐる国際社会の動向とわが国の貢献

外務省 国際協力局 国際保健政策室長
山谷 裕幸

国際保健にはさまざまな課題があるが、これは保健サービスの需要が多様且つ大きいことを意味する。人間のライフサイクルに当てはめると、乳児期から老年期までに、母子保健、感染性疾患、性と生殖、非感染性疾患、健康長寿、加えて公衆衛生危機・災害といった課題が見えてくる。国際保健の主要課題は60年代の特定感染症対策以降、徐々に変遷してきたが、近年は、非感染性疾患や新興・再興感染症、NTDs、保健システム強化などがサミットを含む国際舞台で取り上げられている。

今、国際社会は、2000年に定められたミレニアム開発目標(MDGs)を元に動いているが、この8つの目標のうち、3項目(乳幼児死亡の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止)が保健に関するもの。しかし途上国におけるその達成状況は他の目標に比べ遅れ、悪化しているケースすらある。地域間での格差だけでなく、一国内での富裕層と貧困層との格差への取り組みも課題となっている。

保健分野における開発援助資金は特に2000年以降加速しているが、二国間のドナーの比率は低下し、NGOや官民連携パートナーシップの基金などが増えている。国際保健を取り巻くランドスケープも変化しており、保健課題は大きく拡大し、医療関係者だけでなく他のセクターとの連携が必要となっている。また、MDGs以降、WHOの予算や影響力が低下しているという指摘や、昨今のエボラ出血熱の対策の遅れによる批判もあったことから、WHO改革や健康危機管理体制の構築の必要性が叫ばれている。

拡大する保健課題に対し、@人口動態・保健需要の変化・多様化 A保健格差の拡大 B公衆衛生危機の発生といった問題がある。この解決のためには、すべての人が負担可能な費用で保健サービスが受けられるよう、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の早期達成・維持が求められる。これによりプライマリー・ヘルスケアはより充実したものとなる。また、危機管理・緊急対応体制の整備・強化も必要。保健サービスへのニーズがあっても、アクセスするシステムがなければ優れた医薬品も届かない。UHCの達成は医薬品などの市場の地ならしのためにも有効である。保健は国際社会の共通課題であり、日本の経験を踏まえた貢献が期待される分野。日本ブランドとしてのUHCの主流化を図るべく、具体的な施策に取り組んでいる。

講演3

渋谷 健司氏の写真

新興国、発展途上国における医薬品アクセス問題と企業
〜人材育成の観点から〜

東京大学大学院 医学系研究科
国際保健学専攻 国際保健政策学教室 教授
渋谷 健司

本質的な解決のためには、今回のテーマの通り課題には何なのかを考えるのが大事なことだ。多くの場合、課題をきちんと見極めずに解決策を考えるために(例えば、成長していないから成長戦略策定など)、適切に解決できないことも多い。それに加えて、世界は私たちの常識を超えて、すごいスピードで変化していることを知らなければいけない。

医薬品アクセス問題と極めて状況が似ているのが、Times Higher Educationが毎年公表している世界大学ランキングだ。東京大学は世界で23位、早稲田大学や慶應義塾大学は350〜400位。アジア大学ランキングでも、シンガポール国立大学や香港大学が東京大学に迫っており、別のランキングでは既に抜かれている。東京大学の弱点は国際性で、日本人以外の教員は10人に1人もいない状況。また、女性教員、日本人以外の学生、英語での授業も多くない。現代の世界の医学の共通言語は統計と英語と言えるが、こうした我が国の人材育成状況と医薬品アクセス問題はパラレルではないか。医薬品アクセス貢献度ランキング(世界のメガファーマ20社)にしてもワースト3は日本企業である。発展途上国におけるマネージメント、公共政策、研究開発、価格設定などの面において、収益においても世界のトップ製薬企業であるGSKやノバルティスファーマに後れをとっている。

よく「クールジャパン」と言われるが、それはモノやイメージではなく究極は「ヒト」であり、価値観である。日本人が当たり前とする価値観こそが世界に共感を与え、新しい産業を生み出してきた。グローバリゼーションとは、国際化するものを明確化し、逆に自国のアイデンティティを強く考えることだ。今、本当に必要なことは、外の世界を知り、多様性を尊び、評価基準を明確にしながら、ベスト&ブライテストが製薬産業に来るようにしなければならない。グローバルヘルスの機会を利用して、医療の国際展開すべき機会が来ている。外(海外)を知り、さまざまなシステムを知り、日本はどこに位置するのかを知ったうえで、問題や課題を整理して戦略を立てなければ日本の製薬産業の成長はあり得ないと考える。

講演4

平手 晴彦氏の写真

医薬品産業:ビジネスを通しての貢献

武田薬品工業株式会社 コーポレート・オフィサー
コーポレート・コミュニケーションズ&パブリックアフェアーズ オフィサー
平手 晴彦

伝統的な会社の多くに、本格的なグローバル化に躊躇がある中、武田薬品工業のグローバル化への挑戦は壮大な社会実験と言える。世界の市場に打って出ようとしている日本の経営者の注目を集めている。武田の現在の経営幹部の1/3は日本人、1/3は米国人、その他は様々な国籍。今、改革の真最中であるが、私の海外経験からしてもこのグローバル化は成功するものと実感している。

研究開発型の製薬企業を標榜し、今後とも大きな研究開発投資を続ける必要を認識しているが、その実現には投資回収が出来る体制作りが欠かせない。新興国市場への展開は、投資の末に創出する新薬を出来るだけ多くの患者さんに届け、投資回収を実現するために不可欠な戦略である。

この先5〜7年の医薬品市場の成長額は70%以上が中国、インドをはじめとする新興諸国となる。これを獲得しないのは成長を諦めることを意味する。武田においても中国市場を固めることなしに長期戦略は成り立たない。5年前に中国での事業を預かった際は年商20億円だったが、現在は約700億円に成長した。成功への分かれ目は人財へのこだわり、そして幹部が現場に通い陣頭指揮することにあった。武田の世界市場への挑戦は続く。

一方、新興諸国は、薬の流通ルート、品質、購入資金といった課題を抱えている。それらへの対策なしに土足で乗り込んで受け入れられることは決してない。 2011年当時、武田がカバーしていたのは20数ヵ国だったが現在は80ヵ国を超えている。相手国政府は技術や品質の移転を望むため、現地生産拠点を構える必要があったり、国ごとのニーズ、例えば心血管疾患による死亡率が高いロシアであれば、そのニーズに応えなければならない。EDL(Essential Drug List)への理解が戦略的に極めて重要である。

世界の趨勢として外部のシーズに頼って開発のみに注力している企業が増えているが、基礎研究の強さで世界に打って出るのが日本の製薬業界のあるべき姿だと考える。我々は製造業ではない。国の戦略にある様に知的財産を梃に世界市場を相手にし、日本に国益を持ち帰らなければならない。

講演5

土屋 裕氏の写真

新興国市場と医薬品アクセス

エーザイ株式会社 代表執行役
グローバル・バリュー&アクセス 、医療政策、中国担当
土屋 裕

「患者様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する」というエーザイの企業理念を世界中で実現するためには、新薬創出のイノベーションと医薬品アクセスが事業活動の主眼となる。特に皆保険制度のような医療提供システムが整っていない途上国・新興国では、先進国と異なるビジネスモデルによる医薬品アクセスが必要である。また、グローバルヘルスの改善などを通してその国の経済発展につなげる、非常に長期的な投資としての観点も重要である。

新興国市場の医薬品アクセスの課題、4A(Availability、Affordability、Adoption、Architecture)は、製薬メーカーとしてはそれぞれ、開発・製造、価格戦略、疾患啓発、サプライ・チェーンと捉えられる。一方、顧みられない熱帯病(NTDs)を含むその国特有の疾患に対する医薬品ニーズを考慮することが重要である。 エーザイはより多くの国における医薬品のAvailabilityのため、従来の欧米、アジア諸国に加え、ここ10年はカナダ、ブラジル、ロシア、オーストラリア、ポーランド、メキシコなどへの進出を加速させてきた。Affordabilityとしては、新たな価格システムとして所得レベルに応じた段階的な価格設定を試みている。例えばインド、香港、タイ、フィリピンなどでは乳ガン治療薬を所得レベルにより1〜4サイクルまで無償提供するなど、患者様の医薬品アクセス向上を図っている。Adoptionでは、インドにおいてアルツハイマー型認知症啓発のために、パンフレットの配布やメモリークリニックの開設を行ってきた。NTDs治療薬への取組みとしては、WHOを通じリンパ系フィラリア症治療剤DEC錠を19ヵ国に2億7,700万錠を無償提供している。エーザイは、このようなグローバルヘルスへ改善への取組みを含む医薬品アクセス向上のために、海外、国内における官民パートナーシップを推進している。新興国・途上国の医薬品アクセス向上のためには、政府と製薬企業がそれぞれの強みを活かしたパートナーシップが不可欠であり、新薬開発、承認、提供・流通のそれぞれの段階でさまざまな連携が重要である。

パネルディスカッション

パネルディスカッションのようす 今回のシンポジウムは、各講演の後にそれぞれ質問をお受けしたが、会場の関心の高さがうかがわれたため、パネルディスカッションにおいても質疑を中心とした展開が図られた。製薬企業、大学、医療関係者のみならず、内閣官房からの質問や意見も飛び出し、まさに産官学のベクトルが同方向を向いた瞬間となった。

白神座長の「とてもまとめられるものではない」という言葉の通り、新興諸国の医薬品アクセスには驚くほど多岐にわたる課題があることが改めて明らかとなったが、産官学の連携なくしては先に進まないことは確かであり、第2回目の本シンポジウムに期待を寄せた参加者も多かったものと思われる。